2013年12月31日火曜日

きれいな男12話あらすじ&日本語訳vol.2

綺麗な男12話、後半です。




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「チェ・ジュナ…?」執務室へ戻ったホンランはうわ言のように何度も呟いた。
呟くほどに怒りがこみ上げ、彼女は手に持った手帳をデスクに叩きつける。

電話のスイッチを押すと、彼女は秘書を呼んだ。
秘書が恐る恐る入ってくる。

ホンラン「チェ・ジュナとは誰ですか?」
秘書「情報がまだ…」
ホンラン「ひとつ残らず調べあげてください」

頭を下げ、秘書が下がった。

ホンラン「完全に一杯食わされたわ。誰なの?パク・キソク、あなた?それともホン・ユラ?」

ホンランを不安が襲う。

ホンラン「トッコ・マテは囮だったというの?!」

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ダビデは株主総会が終わるとユラのカフェを訪ねていた。

ダビデ「約束通りパク・ムンス代表は守りました」

ユラは小さく頭を下げる。

ユラ「感謝しますわ」
ダビデ「礼をすべき相手は僕じゃないと思います」
ユラ「…。」
ダビデ「ここへ来たのは、秘密を守ってくれと頼むためです。僕が誰なのか」
ユラ「約束します。でも、いつまで隠せるかしら?」
ダビデ「…。」
ユラ「袋の中の錐はいつか袋を突き破るものでしょう?」

※주머니 속에 송곳(袋の中の錐)=中国の「史記」より。袋に尖った錐を入れていると、そのうち突き破って出てくることより、優れた人は多くの人の中にいても自然と目立つことを例えた言葉です。

ダビデ「今はその時じゃありません」
ユラ「…。」

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廊下を歩いてきたホンランは、向こうで待っている人物を見て立ち止まった。
ムンスだ。

ホンラン「よかったわね。無事で」
ムンス「まだ無事ではありませんよ」
ホンラン「スルリの母親の仕業?」
ムンス「僕も気になっているんです。死刑執行の日に命を救ってくれたのが誰なのか」
ホンラン「…。」

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「強制捜査?なぜだ?」キジの父親、SSグループのカン会長が目を丸くした。

A「裏金捜索のためだと主張していますが、どうやら今回はキジ嬢の相続に関する調査が狙いだという情報があります」
会長「自分の金を子どもにやると言うだけで何を大層な…。担当検事は誰だ?」
B「その…イ・ギム検事です」

会長は天を仰いだ。

会長「なぜよりによってあの女なんだ!ということは、私は取り調べを受けなきゃならんのか?」
B「一度は車いすに乗っていらっしゃる必要が…」
会長「馬鹿なことを言うな!!!」
二人「…。」
会長「イ・ギム…あの女相手にどうロビー活動すればいいんだ?名誉欲もない、金にも欲がない」
A「他の企業もイ・ギム検事対策に苦労していますが、どれも墓穴を掘る結果に終わっているようです。焦って事を起こすと怪我をするかもしれません」
会長「はぁ、私はな、血圧も高いし糖尿の気もある。昔のようにはいかんのだ」

「イ・ギムを倒す方法を持ってこい!!!」会長はにわかに声を荒げる。

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夫人が煎じた薬を持ってくると、カン会長は黙って受け取り、口へ運んだ。
そこへキジがやって来て近くの椅子に腰を下ろす。

母「(キジに)あなた、今日は何も言うんじゃないわよ。お父さん辛がってるでしょう」

キジはニッコリ笑う。

キジ「私、勉強するわ」

「何も言うなって…」言いかけて、母はハッと口をつぐんだ。

母「何?」
父「何をするって?」
キジ「経営を勉強するって言ったの。お父さんに言われたことは全部勉強するわ」

両親の顔が輝いた。

父「世間が私を苦しめた日に、娘が私を元気づけてくれるとは!うちのキジもようやく分別がついたぞ」

「その代わり」キジが慎重に切り出した。

父「その代わり?」
キジ「結婚させて」
両親「?!」
キジ「あと何日かしたら私だって成人よ」
母「結婚は一人じゃできないでしょ」
キジ「トッコ・マテとよ!マテと結婚させてくれなかったら、頭丸めて尼さんになるわ。修道女でもいいけど?」
母「カン・キジ!」
キジ「死ぬよりマシでしょ」
両親「!」
キジ「お父さん、彼が私を勉強する気にさせたの。そういう人なのよ!マテなしの人生、私はやらないわ」

キジは強情にぎゅっと口を結ぶと、唖然とする両親を残し、部屋へ戻った。

母「(溜め息)トッコ・マテって人、一体どんな人なのかしら?」
父「…。」
母「経営を勉強しろと言ってもサボってばかりだった子が、自分から言い出すなんて」

「ホン秘書!」カン会長の声が飛んだ。

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カン会長はさっそくマテを呼びつけていた。

会長「娘は君に本気のようだ。君でなけりゃ修道女になるとな」
マテ「…。」
会長「結果的に言えば君には感謝する。娘を正気にして経営を学ぶと言わせたんだから」
マテ「…。」
会長「財閥なら力で何とかなるものだと思っていたが、世間には思い通りにならない人間もいる。君は女心をよく知っているようだな。キジのようなじゃじゃ馬を飼い馴らしたんだからな」
マテ「…。」
会長「頼みがある」

(俺を呼んだ理由はSSグループの婿になれってことか?)マテはカン会長の腹を探った。

会長「女心を掴んでこい」
マテ「…。」
会長「ソウル中央検察庁特捜一部部長、イ・ギム検事」
マテ「!」

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SSグループ社屋に検察の捜査員たちが強制捜査に乗り込む。

イ・ギム「ひとつ残らず全部押収します!」

捜査員たちの動きに目を光らせているイ・ギムの電話が鳴った。
「ここまでするのか!!!」耳をつんざくような怒鳴り声が電話の向こうから聞こえてくる。

声(電話)「捜査は待てと言ったろ!無視するつもりか!」
イ・ギム「先生はいつだって神のような先輩です。無視などとんでもない」
声「お前、そうやって調子に乗っていたら一発でやられるぞ!いつまでもそれで食っていけると思ってるのか?」
イ・ギム「静かな田舎で暮らすのが夢です。職を解かれれば田舎に移りますよ。申し訳ありません、今、強制捜査中で忙しいんです」

「また改めてご連絡差し上げます」イ・ギムは丁重に電話を切った。

【第6の女 力のある女 イ・ギム】




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「これまでどんなロビー活動も通じなかった、竹を割ったような検事。財閥たちをぶるぶる震えさせる検事。別名”財閥キラー”だ」

カン会長はイ・ギムについてマテに手短に語った。

会長「あの女を倒さなければSSグループは大きくぐらつくことになる」

「トッコ・マテ」カン会長が呼びかけた。

会長「君は私の出来る最後のロビー活動だ」
マテ「そのロビー活動の代価として僕に何を?」
会長「SSホームショッピングをくれと言ったのか?」
マテ「!」
会長「三つの要件を満たせばSSホームショッピング代表の座に座らせてやろう」
マテ「…。」



マテは黙って考えを巡らせる。
カン会長はホン秘書を呼んだ。
呼ばれた秘書が手に持っていた書類を読み上げる。

秘書「三つの条件を申し上げます。一つ目、今回の捜査で会長が控訴されることなく釈放されること。2つ目、キジお嬢様が経営を学ぶため、自ら留学に発つこと。三つ目…」

(キジと婚約でもしろって言うんだろ?)マテが心の中で予想を立てた。

秘書「今後二度とキジお嬢様に会わないこと」
マテ「?」

マテを前に、カン会長が小さく微笑む。

会長「まさか、キジが結婚したがっているからと、私が本当に結婚させてやると期待などしていなかったろうな?」
マテ「…。」
会長「そんな純情な男じゃないとは思っているが。キジの夫になるということがどういう意味かわかるか?」
マテ「…。」
会長「大韓民国ではそれ以上、上がる場所がないということだ」
マテ「…。」
会長「そんな座を誰かれ構わず与えるはずがなかろう」

マテはまっすぐ会長を見据えた。

マテ「誰かれ構わずとおっしゃいましたか?」
会長「…。」
マテ「会長の大事なお嬢様が誰かれ構わず好きになるという意味でしょうか?」
会長「!」

二人の間に立つホン秘書が密かに眉を上げる。

マテ「お嬢様と結婚しようとは思っていません。お嬢様は僕の好みではありませんので」

カン会長は愉しげに微笑んだ。

会長「只者じゃないとは思っていたが、期待以上だな」
マテ「…。」
会長「それで?この条件を受けるか?」
マテ「これまでイ・ギム検事について調査した全ての資料が必要です」
会長「(微笑む)」

マテはホン秘書から三つの条件が記された契約書を受け取った。

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「チーム長♪」ボトンは会社ビルの外へ出ると、そこにいたダビデに声を掛けた。

ダビデ「ボトンさん^^」
ボトン「どうして呼んだんですか?外回り?」
ダビデ「いえ、紹介したい友だちがいて」
ボトン「友だち?」

「じゃじゃーん!」ダビデは路肩に止めた車を指した。

ダビデ「挨拶して!うちの”ボトン”」
ボトン「?!」
ダビデ「僕ね、車に名前つけるのが好きなんですよ。それで”ボトン”ってつけたんです」
ボトン「そんな!私の名前、どうして車に?」
ダビデ「僕の車なのに僕が名前つけちゃダメかな?」

「ほら!」ダビデはボトンを車の後ろに引っ張っていく。
後ろのガラスに『赤ちゃんが乗っています』とプリントしてあるのを指し、ダビデは無邪気に笑った。

ボトン「あら!チーム長、子どもがいるんですか?」
ダビデ「もぅ…女性とつきあったこともない奴に子どもがいるわけないでしょ?」
ボトン「あぁ~。誰かが乗ってた車なんですね!」
ダビデ「新車ですよ!出来立てのほやほや!」
ボトン「それじゃどうしてこんなこと書いたんですか?」
ダビデ「(ボトンを指差し)うちのボトンちゃんが乗るから!あはははははっ」
ボトン「!!!何よそれ…寒気がする!」

「消してよ!」「どうして?」「25歳なのに!」「僕の車なんだから!」
向こうから歩いてきたマテは、車のそばでじゃれあっている二人に気づき、足を止めた。

ボトン「オッパ…!」
ダビデ「「!」
マテ「(呆れて)こんな寒い日に外遊びか?」

ダビデはわざと大声を出した。

ダビデ「さぁ、ボトンさん、ドライブにでも行きますか?」
ボトン「あぁ^^;」
マテ「勤務怠慢ですよ」

憮然としてビルに入っていくマテに、ダビデは笑みをみせた。

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マテはSSグループから受け取ったイ・ギムに関する資料に目を通していた。

マテ「イ・ギム検事か…。子どもの頃から家計を支え、小学生時代より妹二人と祖母の面倒を見ながら、中学高校を首席で卒業。韓国大学法学科首席卒業。司法試験、研修院首席」

「人生常に首席か」非の打ち所のない経歴に、マテは圧倒される。

マテ「”正義感溢れる検事賞”、”最年少部長検事”、”青少年に最も尊敬される人物”、”市民の選ぶ次世代の指導者1位””少年少女家長のための寄付活動に尽力”。それでも本人は貸しアパートにたった一人で寂しく…?」

「偉人伝に載るほどの人物だな」マテは溜め息をついた。

マテ「待てよ」

マテはもう一度資料に目を落とした。

マテ「こんなキレ者の検事なのに、俺は何もマズイことなかったか?顔がいいのは罪じゃないし…」



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イ・ギム検事は一人、バスに揺られていた。
そこへ乗り込んだ男が彼女の隣の席に腰を下ろす。

マテだ。

彼はそっと彼女の様子を伺いながら、胸元から出したいつもの小道具、英字新聞を広げた。

マテ「?」

反応がない。
彼は新聞をたたむと、足を組み、悩ましげにいつものポーズを取ってみせる。

マテ「?」

反応がない。
と、バスが急停止した拍子にズルっと滑り、マテは前につんのめった。

マテ「(撃沈)」



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バスが停留所に着く。
イ・ギムが降りると、マテも彼女に続いてバスから降りた。
話しかけようかどうしようか…迷いながら追いかけるマテの前で、イ・ギムが立ち止まる。

マテ「!」
イ・ギム「何も役に立たないでしょう?」
マテ「?」
イ・ギム「カッコいい振りしようとすればバスが急停止するし、痴漢の一人でもいれば捕まえて大きなインパクトになったはずだけど、そんなこともなく」
マテ「??」
イ・ギム「本当に何も役に立たなかったでしょう?」
マテ「???」



マテは辺りをキョロキョロと見渡した。

マテ「僕のことご存知なんですか?」
イ・ギム「君は私のこと知ってるじゃない」
マテ「???」
イ・ギム「ここまで来たんだから、おもてなしはしないとね。お酒は飲める?」
マテ「…。」

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イ・ギムはコンビニでビールを2缶、そしてツマミを一つ選ぶと、レジに向かった。

店員「今日は2缶お買いになるんですね」
イ・ギム「お客さんなんです。キープしてあるの、ください」
店員「はい」

店員は足元に屈みこむと何かを取り出した。
『正義』と書いた紙切れの貼られた、焼酎の瓶だ。

マテ「いくらです?」

マテが横から声を掛け、ポケットを探る。

イ・ギム「接待は受けないわ」
マテ「…。」

イ・ギムは自分のカードを店員に差し出した。

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二人はコンビニ前に設けられた席に座っていた。
イ・ギムはビール缶にストローを差し、口をつけた。

イ・ギム「君も好きなように飲みなさい」
マテ「なぜストローで?」
イ・ギム「10缶は飲まないと飲んだ気がしないんだけど、それじゃお腹一杯になるからね」

イ・ギムは一口飲むと、キープしていた正義焼酎をビール缶の中に注ぎ足した。

マテ「!」
イ・ギム「こうすれば1缶でバッチリよ」

マテは完全に圧倒されつつ、自分のビール缶を開けて不器用にストローを差し、おちょぼ口ですする。

イ・ギム「すぐに酔いが回るわよ」
マテ「僕、飲めますから。ないから飲まないだけです」

マテはイ・ギムのやった通り、焼酎をビール缶に注ぎ足す。
無理をする若者を、イ・ギムは愉しげに眺めた。

+-+-+-+

マテはすっかり酔いつぶれ、テーブルに突っ伏して眠ってしまった。
誰かの手が現れると、彼の髪を柔らかく撫でる。



イ・ギム「トッコ・マテ、庶子ごっこは面白い?」

もう一度彼の髪を撫でると、イ・ギムは手を離す間際に彼の髪を一本引きぬいた。
それを大切にハンカチに包む。

イ・ギム「トッコ・マテ、君はMGの庶子じゃない」

イ・ギムは自分の鞄を手に取り、マテを残してその場を立ち去った。

+-+-+-+

マテがハッと目覚めると、コンビニ店員がテーブルの上を片付けているところだった。

マテ「すみません、一緒にいた方はどちらに?」
店員「お帰りになりましたよ。1時間くらい前に」

マテは溜息をついた。

マテ「何て冷たいんだ。酔って眠ったのに起こしもしないで」

「あぁ、寒い」マテはポケットに両手を突っ込み、立ち上がった。

+-+-+-+

マテは会社に戻っていた。
イ・ギムの調査資料をもう一度めくる。

マテ「まさに二文字だな。”正義”。はぁ、ただの紙の無駄遣いだ」

「キム・ボトンが好きな裏紙に…」

マテは資料を裏返そうとしてハッとする。

マテ「裏面…?」

ごく真面目で質素なイ・ギム検事の生活に、マテは想像を巡らせる。



マテ「イ・ギム検事の裏面…。孤独?」

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キジが父の元へ駆け込んだ。

キジ「どうしてそんなこと出来るの?私がマテのことどんなに好きか知ってるくせに!あんなに言ったのに!!!」
父「全て一時のことだ、キジ。顔以外に何の取り柄があって、あいつに人生を賭ける?」
キジ「…。」
父「お前の人生はSSグループの未来そのものだ。それが分からないのか?」
キジ「本当にマテは私と二度と会わないってサインしたの?本当に?」
父「ミョミもマテも人間だ。人間は皆同じ。めぼしい物があればいつだって背を向けるのが人間だ」
キジ「ううん、違う。違うわ!同じじゃない!!!」

+-+-+-+

マテの電話が鳴る。
”カン・キジ嬢”と表示された電話を、マテは淡々と受けた。

マテ(電話)「僕です」
キジ(電話)「私を売るなんて!!!それがあんたの才能?」
マテ「もう電話もしてはいけません。ご存知でしょうが、キジ嬢と二度と会わないとサインしたんです」
キジ「私を捨ててイ・ギム検事を誘惑するって?あんな怖いおばさんがなびくと思う?イ・ギムはね、絶対あんたになびいたりしないわ!」
マテ「いつかこんな話をしたでしょう。”人生の裏面”」

静かにそう言って、マテはイ・ギムの資料に視線を移した。

マテ「イ・ギム検事の”裏面”を埋めるつもりです」



+-+-+-+

バスを降り、いつもの帰り道を歩いてくると、イ・ギムは足を止めた。
大きなぬいぐぐみを抱きかかえたマテが、寒そうにコンビニのテーブル席に座っている。

振り返ったマテは彼女の姿に気づき、立ち上がって無邪気に笑った。



マテ「ビールお飲みになるでしょう?」
イ・ギム「君を見たら飲む気が失せたわ」
マテ「あぁ、酷いなぁ。寒い中、今まで待ってたのに!」
イ・ギム「お茶でも飲みましょう」
マテ「(ニッコリ)」
イ・ギム「寒いわ。入りましょう」

「よっしゃ!」とばかりにコンビニに入ろうとすると、イ・ギムは違う方向に歩いて行く。

マテ「?」

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通されたイ・ギムの部屋には、体を鍛えるグッズや竹刀、ボクシンググローブなどがあちこちに置かれていた。
マテはしばし呆然と部屋を眺めると、持って来たぬいぐるみを適当な場所に座らせる。

イ・ギムがキッチンで飲み物を用意し、振り返った。

イ・ギム「それは片付けて」
マテ「プレゼントですよ」
イ・ギム「(笑)この家に似合うと思う?」
マテ「きっと支えになりますよ。そのうち、こいつといつも一緒にいる検事さんの姿が見られそうです。こいつらエネルギー持ってますからね」
イ・ギム「ご苦労なことね。相手を見て作戦を立てなさい」

「それにしても飾り一つないな」イ・ギムがダイニングの椅子に座ると、マテは部屋をもう一度見渡しながら残りの椅子に腰掛けた。

マテ「人が見たら男の部屋だと思いそうだ」
イ・ギム「カン会長は何をくれるって?」
マテ「…。」

マテは口をつぐみ、彼女を見た。

イ・ギム「明白じゃない。私に会いに来る理由が他にある?」
マテ「…。」
イ・ギム「私がデリラで、君がサムソンってわけ?あんな人形で私が髪でも切りそうに見える?」

※サムソンとデリラ=旧約聖書に登場する夫婦。サムソンは髪に特別な力を持っており、それを知った妻のデリラがサムソンを裏切って夫の髪を切ったため、襲ってきたペリシテ人に捕まり、死んでしまった。

「いいえ」マテは微笑んだ。

マテ「正直、検事さんみたいな方にはピッタリ合うレシピがありません」
イ・ギム「もう白旗を上げて降伏するの?」
マテ「…。」
イ・ギム「私とも取引しましょう。カン会長から何を貰うことに?」
マテ「…。」
イ・ギム「私がカン会長の捜査をうやむやにしたら、君は私に何をくれるの?」
マテ「そんな方じゃないでしょう。僕は検事さんについてすっかり勉強したんですから」

「えぇ」マテは観念したように頷く。

マテ「僕は検事さんを誘惑すれば助かるんです」
イ・ギム「答えは見つかった?」
マテ「はい」

マテはニコヤカに笑う。

イ・ギム「その答えがあんな人形なの?」
マテ「僕が出した答えは…」
イ・ギム「…。」
マテ「お守りすることです。検事さんの正義を」
イ・ギム「…。」
マテ「それが僕の答えです」



「あの人形は本当にただのプレゼントですよ」マテは人形を軽く指差す。

マテ「検事さんも竹刀とか持ってないで、一度あいつと遊んでみてください。意外と癒されますから」
イ・ギム「用事が終わったなら帰りなさい。もう遅いわ」
マテ「まだ終わってませんよ」

マテは持って来た紙袋から男物の靴を一足取り出してみせた。

マテ「一人暮らしの女性はね、こうやって父親の靴を一つ置いておくんです。何のためか分かるでしょ?」
イ・ギム「片付けなさいよ!」

「俺ってホント優しいよな。嫌われようがない」マテは彼女の苛立ちに耳を貸さず、靴を持って立ち上がると、玄関に男性靴を置いた。

イ・ギム「…。」

「帰りますね」玄関からマテが笑顔で覗く。

マテ「おやすみなさい^^」

イ・ギムは呆れたように笑うと、玄関の男性靴を片付けようと手に取り…そのまま戻した。

+-+-+-+

ホンランは落ち着かずに悶々としていた。
そこへキソクが現れる。

キソク「夜中の2時だよ」

「寝たほうがいい」微笑む夫を、ホンランが睨んだ。

ホンラン「チェ・ジュナというあなたの友人の息子が随分株を持っていたわ」
キソク「…。」
ホンラン「綿密な人ね。友人の息子を使って持ち株を管理なさるとは」

キソクは一呼吸置き、声の調子を落とした。

キソク「友人の息子にそう大きな持ち株を与えたりしますか?」
ホンラン「それならあの人は一体誰なんです?」
キソク「ジュナ。私の息子です」
ホンラン「!」
キソク「君と結婚するときに捨てた、私の息子なんだ」
ホンラン「!!!む…息子がいたんですか?」
キソク「…。」
ホンラン「誰の…そんな…。あなた、なぜそんなことが!!!」
キソク「君も知っていたから、いつも警戒して庶子を探していたんじゃないのか?」
ホンラン「隠している息子が一体何人いるんですか!!!ムンスが何か起こす度に一人ずつ出すおつもりですか!!!そうなんですか!!!」
キソク「君…」
ホンラン「…。」
キソク「私たちが共にした年月は20年になる。その間、多くの人が傷ついて、寂しい思いをしたはずです」
ホンラン「!」
キソク「これからは我々がその傷を包み込む時です」
ホンラン「私には何のことだか分かりませんわ!」



激昂すると、ホンランは夫を残し、部屋を出て行く。
キソクはため息をつき、テーブルの上の懐中時計を見つめた。

+-+-+-+

ボトン会社にユラがやって来た。

ボトン「社長はいらっしゃいませんけど」
ユラ「もうすぐ着くって連絡があったんです」

「ほら」と、ユラはおみやげに持って来たコーヒーをボトンに差し出した。

ボトン「…。」
ユラ「毎回手ぶらで来たから…。(ダビデをチラリ)一緒に召し上がって。まだ暖かいわ」

社長室へ向かおうとしたユラは、ハッとして立ち止まる。
振り返ると、ボトンの机の上に置いてあった懐中時計に釘付けになる。

ユラ「その時計…」
ボトン「?」
ユラ「ボトンさんの?」

ユラが手を伸ばすと、ボトンは遮るようにさっと懐中時計を握った。

ボトン「はい。私のです」
ユラ「この時計…本当にボトンさんの?」

~~ユラがまだムンスと夫婦だった頃

「お召し上がりください」ユラはお茶とフルーツをホンランに出す。
顔も上げないホンランにユラは続けた。

ユラ「お義父様が買っていらした緑茶です。香りがとてもいいですよ」
ホンラン「ありがとう」

そのままじっと立っていると、ホンランが初めて顔を上げた。

ホンラン「どうしたの?」
ユラ「い、いいえ」

ユラは賢明に姑との話題を探し、テーブルの隅に置いてあった懐中時計に目を留めた。

ユラ「あら、この時計とても綺麗ですね、お義母様」

ユラが手を伸ばすと、ホンランが冷たくその手を叩いた。

ユラ「!」
ホンラン「むやみに他人の物に手を付けるのが趣味なのね、あなた」
ユラ「…。」

~~

ボトンが持っていたのは、ユラの辛い思い出として残っていたその時計そのものだった。

ユラ「この時計、本当にボトンさんの物なんですか?」
ボトン「えぇ。マテオッパがくれたんです。おばさんの遺品を一つ持ってろって」
ユラ「…これがマテの物ですって?」

ボトンとダビデが不思議そうにユラを見上げる。
そこへマテが入ってきた。

マテ「来てたんですね」
ユラ「マテ…」
マテ「?」

言葉もなく、ユラはマテを見つめた。



+-+-+-+

ここでエンディングです。

カン会長とマテの取引や、イ・ギムとマテの出会い、イ・ギムへの作戦など、原作の見どころが今回も結構忠実に再現されています。
ただ、カン会長との契約は、原作では秘書とマテだけで取り交わしていますし、「お嬢様は誰かれ構わず好きになると?」といったマテの反撃は、おそらくドラマオリジナルかと。
原作をベースにしつつ、より面白くなるようにアレンジしてあると思います^^

そして、以前からときどき出てくる懐中時計はドラマオリジナルのアイテム。
こういったアイテムを見せることで、セリフで表現しなくても視聴者に「もしや」と思わせる。
原作にはそういう物がないので、こちらも工夫したなぁと思いますね。

ところで…キソクはホンランに「(息子の存在を)知っていて警戒していたんだろう」と言っていますし、以前のテレビ映像でも出演者がはっきりそう言っていますが、本当にダビデの存在を知らなかったんでしょうか。
息子に持ち株を与えていたのを知らなかったのは納得ですが、ちょっとスッキリしない部分です。

ではでは、今回はこの辺で。

コメントを書き込めない方がいらっしゃるようです。
調べても原因が分からず、対処できずにいるんですが、せっかくコメントを残そうとしてくださったのに申し訳ないです。





6 件のコメント:

  1. いつも楽しく読ませていただいてます!ドラマを見る前に私は読ませてもらってるんですが、凄く分かりやすくて面白いです(*^^*)♪これからもよろしくお願いします!
    Miyabiより

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  2. 吹き出しコメントも大好きですw
    お正月から ありがとうございます
    ♡‹‹ヽ(´木`)/››‹‹ヽ(  ´)/›› ‹‹ヽ( ´木`)/››♡

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  3. 初めまして。いつも早い翻訳ありがとうございます。
    ドラマ同様、こちらにお邪魔して訳を見るのが楽しみになっています!
    これからもわかりやすい訳、クスッとなるような素敵なコメント、楽しみにしていますね(^-^)

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  4. 明けましておめでとうございます(*^_^*)
    キソクとホンランの会話の内容がわかりすっきりしました(^-^)
    マテはイ.ギムを落とすことができるかな~?
    後4話で終わりなんですよね~?
    今年もよろしくお願いします(#^_^#)

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  5. いつもありがとうございますm(_ _)m
    細かい描写まで訳してくださり助かってます。
    お忙しい時期です。どうぞご自愛くださいますように・・・♡

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  6. yujina~さん
    あんにょん♪ お久しぶりです(*^^*)
    いよいよドラマも大詰めになってきて ようやく第1話から読むことが出来ました。

    yujina~さん 原作読まれているんですね。
    セリフだけでなく 「ここは原作通り」「ここはドラマオリジナル」というのがわかり、すごくうれしい!
    やっぱり 話題になった漫画なだけに どのあたりがドラマオリジナルなのか気になって観ていましたのでyujina~さんの解説がとてもありがたいです。
    解説といえば 諺も。
    ただ聞いただけでは 全然意味が解らない たとえや諺、流行っているTVからの引用などもここで初めて理解しました。
    結末を楽しみにしつつ また、お邪魔させていただきます^^
    2014年も yujina~さんにとって 充実した幸せな一年でありますように♡

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記事を読んでくださってありがとうごございます。
コメントの際はお名前を入れてくださると嬉しいです。