2014年1月12日日曜日

きれいな男15話あらすじ&日本語訳vol.2

綺麗な男15話、後半です。


+-+-+-+

電話を切ったキソクは笑顔だった。

キソク「暗号を見つけたらしい」

向かいで将棋の相手をしていた秘書が愉しげに答える。

秘書「本当に上手く見つけたんでしょうか」
キソク「あぁ。連れて来るそうだ。連れてね」

「会長」秘書が改まって声を掛けた。

秘書「そろそろ病院に行かれてはいかがでしょう」
キソク「チョン秘書、随分と思いやりがないな」
秘書「…はい?」
キソク「自分の人生じゃないからか?残り少ない人生、病院食を食べて暮らせるはずがない」

キソクは秘書の手前にある「卒」の駒を取り、自分の「車」の駒を置いた。

※これは韓国将棋。日本で知られている将棋とは駒が違います。

キソク「王手だ」
秘書「…。」

困った顔をする秘書を見て、キソクは余裕のある笑みを浮かべた。

※キソクが置いた「車」の駒のこちら側にあるのが、秘書の大将、「楚」。「車」は前後左右、自由に動けるので、秘書が次の手でこれを取らなければ、キソクの勝ちが決まるわけですね。ちなみに「王手だ」と訳したところ、正確には「”車”を受け取れ」と言ってます。

+-+-+-+

ボトンは自宅のソファでノートと睨めっこしている最中だ。
そこへマテから電話が入り、腕時計型の受信機が鳴った。


#すごいね、これ

ボトン(電話)「オッパ♪」
マテ(電話)「何してる?」
ボトン「仕事ですよぉ~。家で一生懸命仕事してるとこ」
マテ「給料上げさせるアピールか?」
ボトン「えへへ^^年俸交渉の時期は過ぎちゃったかなぁ」
マテ「交渉して上がると思ってんのか?」

電話で話しながら、マテは片方の手に指輪の箱を握っていた。

マテ「まぁいい。明日メシでも食おう」
ボトン「夕食?!どうしたの?」
マテ「クリスマスに俺がすっぽかされたレストラン、分かるよな?そこに来てくれ」
ボトン「ははっ。分かる」
マテ「今度はヨソへ行くんじゃないぞ。…大事な日なんだから」
ボトン「?」

電話を切ると、マテはキソクとミスクの写真を見つめた。
じっと見ているうちに、彼の顔に優しい笑みが浮かぶ。



マテ「母さんも絶対来て。トッコ・マテの人生で一番大事な日なんだ」

+-+-+-+

ボトンはベッドの上に服を並べて悩みながら、胸をときめかせた。

ボトン「大事な日?何だろ。…暗号見つけたのかな?!うふふ♪」

そこへメールが入る。

マテ(メール)「ボトン、何も訊かずにここに急いで来てくれ。場所を送る。電話しちゃダメだぞ。出られる状況じゃないんだ」

ボトン「?」

どこかの暗い一室で、見知らぬ誰かがPCに文章を打ち込んでいた。
マテのアドレスを装い、ボトンにメールを送っていたのだ。

マテ(メール)「こっそり一人で来るんだ。早く…早く来てくれ」
ボトン「何これ?オッパに何かあったのかな?」

ボトンは上着を掴み、駈け出した。

+-+-+-+

通りへ出てタクシーを止めると、「ここへ急いでください」と運転手にメールの文を見せる。

タクシーは人気のない荒れた遊園地跡へ入っていった。
遊園地の真ん中でタクシーを降りると、ボトンは不安げに周囲を見渡す。

ボトン「ここで合ってるのかな?」

もう随分長く使われていない様子の遊園地は、そこらじゅうに瓦礫が散在し、人がいるような気配も感じられない。

ボトン「オッパ、どこにいるんだろう?」

「オッパ?マテオッパ?」キョロキョロしながら歩いてくるボトンに、突然二人の男が駆け寄った。
口を布で塞がれ、ボトンは悲鳴を上げて手に持った携帯電話を落とす。
彼女は引きずられるように連れ去られた。

あっという間の出来事だった。

+-+-+-+

ダビデが出勤すると、そこにいたのはトヒだけだった。

ダビデ「トヒさん、ボトンさんはどこか外回りですか?」
トヒ「あれ?代理はまだ出勤なさってませんけど」
ダビデ「…。」
トヒ「社長はSSに行くっておっしゃってたから、一緒に行ったのかな?」

不思議に思ったダビデは携帯電話を取り出した。
電話を掛けてみても呼び出し音が流れるばかりだ。
ダビデはメールを打ち始めた。

ダビデ(メール)「SSに行ってるんですか?事務所に戻りますよね?」

メールを送ると、ダビデは仕事に掛かった。

+-+-+-+

ボトンが連れ去られた現場に一人の男がやってくる。
落ちていた携帯電話を拾い上げると、彼は『デバイス終了』をタップし、電源を切った。

+-+-+-+

マテはSSグループでミーティングを進めていた。

スタッフ1「SSグループの株価も上がりっぱなしです」
マテ「それは良かった。来シーズン売り出す予定で進行中のブランド、放送コンセプトをあらかじめ教えてください。今週中に契約が済みそうです」
スタッフ1「はい。順次用意します」

「会議はこのくらいにしましょうか」マテが声を掛けると、一同が資料を閉じる。

スタッフ1「ところで、今日は随分とご気分が良さそうですね。何かいいことでもおありですか?」

「嬉しそうですか?」マテはスタッフに微笑む。
順にスタッフを見回すと、マテは照れくさそうに俯いた。

+-+-+-+

ダビデが立ち上がってボトンのデスクを覗きこんだ。

ダビデ「トヒさん、お掃除靴下の日本での売上表、トヒさんが持ってるんでした?」
トヒ「それは…キム代理(ボトン)がご覧になってました。連絡してみますね」

トヒが電話を掛けると、「電源が入っていないため…」とアナウンスが流れる。
トヒはマテにかけ直した。

トヒ(電話)「社長、キム代理とご一緒ですか?あぁ、いえ、急ぎってわけじゃないんですけど、探してる書類があって。えぇ、分かりました、はーい」

トヒは電話を切った。

トヒ「(ダビデに)キム代理は一緒に行ったんじゃないみたいですけど。社長は今日ずっとSSにいらっしゃるみたいです」
ダビデ「…。」

+-*+-+-+

すっかり日が落ちていた。
ヨミムは一人、誰もいない公園のベンチで腕を組む。

ヨミム「ほらね。ナ・ホンランを刺激するなって言ったじゃない。お姫様の救出に誰を送り込むべきかな?」

しばらく考えると、ヨミムは携帯電話を取り出した。

+-+-+-+

「すみません!誰もいないんですか?!」暗く、うすら寒い空間に閉じ込められたボトンは、夢中で扉を叩き続けた。
ボトンは途方に暮れ、その場に小さくうずくまる。

+-+-+-+

マテはクリスマスの夜と同じレストランの同じ席で、今夜も腕時計を覗いた。
念を押しておいたのに、ボトンの姿はない。



ポケットから指輪の箱を取り出し、何度となく中を確かめる。
微かに微笑むと、マテは窓の外に視線を移した。

+-+-+-+

ダビデは会社のデスクで携帯電話を見つめていた。
誰もいない隣の席に目をやる。
今日一日、ここにボトンが座ることはなかった。

そのとき、メールの着信音が響く。

ダビデ「?」

送信者の名前はわからない。

メール「キム・ボトンさんがどこにいるのか気になりますか?助けなきゃいけないわ。場所をお知らせします」

ダビデ「!!!」

ダビデは慌てて立ち上がった。

+-+-+-+

ガランとした暗がりの中、ボトンは寒さと恐怖に震えていた。



ボトン「オッパ…。私、また違うところに来ちゃった」

+-+-+-+

マテは諦めてレストランを出ると、車を走らせた。

マテ「全く…キム・ボトンの奴、約束の場所にも来ないでどこ行ったんだ?」

マテは車の通話ダイヤルをひねると、ボトンに電話を掛ける。
「今、お客様は電話に出られません」とアナウンスが流れた。

マテ「電話も出ないで一体どこ行ったんだよ?」

「ひょっとして…」マテはボトンの弟テシクにかけ直す。

テシク(電話)「あぁ、マテ兄」
マテ(電話)「テシク、家にお姉ちゃんいるか?」

+-+-+-+

ボトンの息がみるみるうちに乱れていた。
寒さで度々意識が遠のく。

危険な状態だった。

+-+-+-+

ダビデは車を飛ばすと、教えられた廃遊園地に辿り着いた。
懐中電灯で辺りを照らし、ありったけの声でボトンの名を叫ぶ。

ダビデ「ボトンさん!ボトンさん!」

しばらく夢中で歩いている内に、ダビデは怪しい地下への階段があるのに気づいた。

ダビデ「ボトンさん!」

階段の上まで来てみると、降りた先の扉に掛かっている鎖は妙に新しい。
ダビデは階段を駆け下りると、扉を叩いた。

ダビデ「ボトンさん!中にいるんですか?!」

応答はない。ダビデはそれでも再び扉を叩く。

ダビデ「ボトンさん!中にいるんですか?!」

その声が、朦朧としていたボトンの耳に届いた。

ボトン「チーム長!チーム長!」
ダビデ「ボ、ボトンさん!!!」

辺りを見渡すと、足元に木槌が転がっているのが目に入る。
ダビデはそれを拾い上げると、鎖めがけて振り下ろした。

繰り返し振り下ろすうち、勢い余って彼は手ごと鎖にぶつけてしまう。
あっという間に手の甲が赤く染まった。

ダビデ「ああっ!」

それでもダビデは夢中で槌を振るった。
ようやく鎖が外れると、ダビデは扉を開け、中へ飛び込む。

ダビデ「ボトンさん!」

薄明かりの下で小さくなっているボトンが顔を上げた。

ダビデ「!!!」
ボトン「…チーム長」

消え入りそうな声で、ボトンはそう呟く。
ダビデは急いで彼女に駆け寄り、彼女の前にしゃがみこんだ。

ダビデ「ボトンさん!ボトンさん、大丈夫ですか!」
ボトン「…。」

目の前で覗き込むダビデをぼんやりと見つめながら、ボトンの意識は遠のいて行った。

ダビデ「しっかりして!ボトンさん!」

ダビデはボトンを抱き上げると、降りてきた階段を駆け上がった。

+-+-+-+

マテの車にテシクから連絡が入った。

テシク(電話)「マテ兄!姉ちゃん、今病院に向かってるって。ダビデ兄が連れてくところなんだ」

マテはアクセルを踏み込んだ。

+-+-+-+

病院のベッドで眠るボトンを、母、弟、マテ、そしてダビデが見守っていた。

母「一体どうなってるんだか…。この子、何でそんなところに行ってたんだい?」

誰も口を開かない。

母「それでも大した怪我はないっていうから、みんな帰って休みなさい。テシク、あんたも帰りなさい」

ダビデが何か言おうと口を開く。

マテ「僕がついてます」
ダビデ「!」
マテ「おばさん、驚かれたでしょう?テシクも帰りな」
ダビデ「…。」
マテ「(ボトン母に)少し休んで、明日の朝またいらしてください。今夜は僕がいますから」
母「そうだね。じゃあ明日の朝早くに来るよ」
マテ「(頷く)」
母「うちのボトンをよろしく頼むよ。すごく怖かったろうに」

「チーム長」マテが後ろのダビデを振り返った。

マテ「おばさんとテシクを家までお願いします」
ダビデ「…はい」

ダビデは力なく頷いた。

ダビデ「お母さん、お送りします」

3人が出て行くと、マテは眠っている彼女の顔をじっと見つめた。

+-+-+-+

ボトンの自宅に着くと、ダビデはすぐに気付け薬を取り出した。

ダビデ「お母さん、これを飲まないと。驚いて明日起き上がれないかもしれないから」

薬の蓋を開けようとするダビデの手の甲に、テシクが目をとめた。

テシク「怪我したの?」

「あ…」ダビデは思わず手を隠そうとする。

母「あら…。慌ててたからって、チーム長の手に塗る薬、買わなかったの?」
ダビデ「ちょっと怪我しただけです。ちっとも痛くないですから」
母「何てこと…。うちは大丈夫だから、もう帰って休んでください。今日は一日大変だったね」
ダビデ「僕はボトンさんのところに…」
母「マテがいるんだから」
ダビデ「…。」
母「マテがいるから心配しないで。ね?」
ダビデ「…はい」

+-+-+-+

マテはずっとボトンのベッド脇から離れずにいた。


考えこんでいると、小さな声が聞こえる。

ボトン「オッパ…」
マテ「(顔を上げる)ボトン!」

ボトンが目を開けていた。

マテ「大丈夫か?意識はどうだ?」
ボトン「私、また約束守れなかった…。だいぶ待ったでしょう?」
マテ「なぁ、今そんなこと…!」

マテは自分をまっすぐ見つめるボトンに口をつぐんだ。

マテ「痛むところはないか?」

ボトンが頷く。

マテ「何であそこに行ったんだ?」
ボトン「…。」

彼女がぼんやりと目を伏せると、マテは「とりあえず休もう」と質問を撤回した。

マテ「先に警察に通報…」
ボトン「ダメ!」
マテ「?」

ボトンは自分の携帯に届いた謎のメールを思い返した。
マテからのメールで呼び出された彼女は、そこで何者かに捕らえられ、幽閉されたのだ。
この事件がマテに対する攻撃であるのは間違いなかった。

ボトンは首を横に振る。

ボトン「通報しちゃダメ」
マテ「…。」

ボトンはじっと彼を見つめる。

マテ「…。!」

ある可能性がふいにマテの頭の中で繋がる。

マテ「温かい…お湯でも持ってくる…」

マテは彼女のそばを離れた。

+-+-+-+

「あなたなんですか?」

マテは病院の廊下で電話の相手にそう尋ねた。


マテ(電話)「育ててくれた僕の母…その母の教えがあるから、今はまだあなたに敬意を払います。あなたかと訊いているんです」

電話の向こうでホンランが静かに微笑む。



ホンラン(電話)「その声はどうしたの?何か恐れているようね」
マテ「…。」
ホンラン「失うものがないから恐れなどない…あなたがそう言ったんだと思うけれど、それも忘れるほどだったようね。警告したはずよ。地獄になると。消えてしまえと…」
マテ「!」
ホンラン「あなたも、あなたの父親も同じ人生を送るのよ。そばにいる人達は皆寂しく枯れていくわ。私が…そうだったように」

マテは愕然と柱に寄りかかった。
どうしようもなく、彼は足を強く踏み鳴らす。
柱に打ち付けた頭が、ゴンと鈍い音を立てた。



理不尽な仕打ちへの悔しさと、大きな悲しみが彼の心の中で膨れ上がる。
彼は長い間、そこで茫然と立ち尽くした。

+-+-+-+

マテが戻ってくると、ボトンは再び眠っていた。
赤くなった目で彼女を見つめながら、彼はポケットの指輪を取り出す。

彼女の手を取り、人差し指に指輪を近づけると、彼はもう一度彼女を見つめた。

マテ「…。」

言いようのない悲しみが襲い、彼は指輪をはめられずにボトンから手を離すと、声を押し殺して泣いた。

+-+-+-+

マテが病室から出てくる頃には、外が明るくなっていた。
力なく廊下を歩いてくると、ベンチに腰掛けているダビデの姿に気づく。
気配に気づき、ダビデもまたマテを振り返った。

マテ「…。」
ダビデ「…。」



マテ(心の声)「愛が何なのか、やっと分かった気がするのに…」
ダビデ(心の声))「手放さなきゃいけない愛だって、解ってるのに…」

+-+-+-+

ボトンのベッドの端に腰掛け、ひたすらボトンを見守っているダビデに、やって来たボトンの母が恐る恐る声を掛けた。

ボトン母「あの…ご飯でもちょっと」
ダビデ「お腹空いてないんです」
ボトン母「…。」
テシク「ちょっと寝なきゃ」
ダビデ「眠くないんだ」

どこか周りを圧倒するような気迫が、ダビデにはあった。

ボトン「チーム長…」
ダビデ「はい、ボトンさん」

ボトンは困ったように溜息をつく。

テシク「サウナにでも行っておいでよ」
ダビデ「水は大嫌いなんだ」
テシク「…それでも洗おうぜ」
ダビデ「?」

テシクが鼻をひくつかせ、ボトンの母も気まずそうに小さく咳払いをした。

ダビデ「く、臭い?」
テシク「2日もこのままだろ、ダビデ兄」
ダビデ「あ…」

「それじゃぁ」とダビデは立ち上がり、ほんの少し離れた場所に座り直した。

ダビデ「ここにいます。ここでこうしてますから」
一同「…。」

「けど、フケが…」テシクが黒いコートの肩に手をのばす。

ダビデ「あぁ、落とさないで。フケとか埃とか、そういうの好きなんだ」

そんなダビデにボトンは吹き出し、声を上げて笑った。

母「あらまぁ、この人ったらホントに…」
ボトン「私、ホントに大丈夫ですから」

病室の入り口からそっとマテが中の様子を覗いた。
楽しそうな彼らの様子を彼は静かに見つめる。



母「(ダビデに果物を渡し)これでも食べて」
ボトン「^^」
母「手に絆創膏でも貼ってきなさいよ!」

マテはそのまま立ち去った。

+-+-+-+

マンションに戻ってきたマテは、あるプレゼントの箱を手にとっていた。
しばらく躊躇ってから蓋を取ると、そこには赤い押しボタンがポツンと入っている。



それは第2の女、エレキ仙女が別れ際に彼にくれたものだった。

~~

エレキ仙女「プレゼントよ」

「何です?」と不思議がるマテに、エレキ仙女は微笑んだ。

エレキ仙女「後になってね、マテの進む道でとても辛いピンチに出会ったとき、自分の心をコントロールできずに苦しむことになるわ」
マテ「…。」
エレキ仙女「そのとき…そのときは忘れずに開けて」
マテ「…。」

~~

エレキ仙女が贈ったものは、マテが自分の心をコントロールするためのボタンだった。

マテ(心の声)「僕のボタンはキム・ボトンです。押したいけれど…そうして僕のそばに留めたいけれど…。僕は心をコントロールしたくはありません」

マテは一度開けた蓋をもう一度閉めた。

マテ「…。」

+-+-+-+

ボトンはすっかり元気になり、退院していた。
家から出てくると、クラクションの音にボトンは驚いて振り返る。

ボトン「チーム長!」

車の脇に立っているダビデが、ボトンを見て微笑んだ。
ボトンが近づいてくると、ダビデは助手席に回りこみ、ドアを開ける。

ボトン「いつから待ってたんですか?私、ホントに大丈夫ですってば」
ダビデ「乗車賃払ってください、それじゃ^^」

戸惑うボトンをダビデは助手席に乗せた。

+-+-+-+

ボトンが社長室へ入ってくると、マテは一瞬動揺して目を泳がせた。
「来たのか」書類から目を上げず、彼は素っ気なくそう言った。

ボトン「はい^^何ともないのにもっと休めなんて言うし。オッパはどこも具合悪くないですか?」
マテ「よく食べてよく寝てるのに、どこも悪いわけないだろ」

冷たいマテの態度に戸惑いつつ、ボトンは小さく笑って受け流した。

ボトン「工場廻りして来ますね」
マテ「あぁ」
ボトン「…。」

ボトンが背を向け、社長室を出て行く。



彼はゆっくりと視線を上げた。
ガラスの向こうで、ダビデと仲良く出かけていく彼女の姿をそっと目で追う。

♪暗闇の中で目を閉じると
奥深く刻んだ君が浮かぶ
どんなに努力しても
何度消し去っても
僕の心は君で一杯になるんだ

どうか苦しまないで これ以上苦しまないで
心の中で叫ぶだけの 僕の愛
おさえられないほど大きくなった想い
今 君に告げるよ
君も同じ気持ちなら…僕の元へ♪

+-+-+-+

電気を消して会社を出ると、マテは重い足取りでマンションへ戻った。
部屋に入ると待っていたボトンが立ち上がる。

ボトン「オッパ」
マテ「キム・ボトンは悪い癖があるな。男の部屋に勝手に入り込むと、尻軽に見られる」
ボトン「…。キムチとスープを持って行けってお母さんが言うから。外で待ってるの寒くって」

そう言ってボトンは笑った。

マテ「そういうことなら、これからはメールしろ。必要なら俺が取りに行けばいい」
ボトン「はい^^」

冷たいマテにも、素直に頷くボトン。
そのまっすぐな目がマテの心に突き刺さった。

マテ「…帰らないのか?」
ボトン「…えぇ、帰らなきゃ^^;」
マテ「…。」
ボトン「オッパ、ご飯食べてないでしょ。私、すぐ用意しますね」

ボトンが持ってきた荷物を手にキッチンへ向かおうとする。
マテはかろうじて声を絞り出した。

マテ「もうやめるんだ、ボトン」
ボトン「…。」

ボトンが振り返った。



ボトン「オッパ、私、何か悪いことしちゃいました?」
マテ「…。」
ボトン「それなら言ってくれなきゃ。私、全部直します」

マテが逸らしていた視線をボトンへ鋭く向けた。



マテ「お前の悪いところなんてどこにある?直すところなんかない」
ボトン「それなのに、どうしてそんなに冷たく…。私が事故に遭ったから気まずいんですか?」
マテ「大怪我したわけでもないのに、まだ気まずくしてなきゃいけない理由なんかあるか?」
ボトン「…。」
マテ「もう…煩わせないでほしいんだ」
ボトン「!」

ボトンは思わずマテの手を取った。
「オッパ、どうして…?」見上げる彼女の目に涙が滲んでいる。

ボトン「悪い人の真似してるみたい」
マテ「…。」
ボトン「オッパはそんな人じゃないもん。私がオッパのために酷い目に遭うんじゃないかって、責任感じてるんでしょ?それでわざと私のこと遠ざけようとしてるんでしょ?」
マテ「…。」

マテは腕をしっかり掴んだボトンの手を無言で払った。

マテ「ヒロイン気取りか?」
ボトン「オッパ…」
マテ「今回のことで驚いたのは確かだ。それでも、ナ・ホンラン女史は本当に凄い人物なんだ。今の怒りが解けるまで待っていれば、MGの女王は唯一の血縁である俺を欲しがるだろう」
ボトン「!」
マテ「そうすれば今より遥かに凄い女たちと付き合えるのに、そのときになって、”すまない、ボトン。お前の気持ちはやっぱり受け入れられない”それじゃあんまりだろ」

「オッパ、どうしちゃったの…?」ボトンの瞳から涙が零れ落ちる。

ボトン「嘘言わないで。オッパはそんな人じゃない」

マテはボトンの涙から目を逸らす。

マテ「金と名誉の他に大事なものなんてあるか」
ボトン「…。」
マテ「何もかも一緒だろ。ナ・ホンランという人を…これからは否定したりしない。俺を産んでくださった母親なんだから」
ボトン「…。分かった。私はそれでいいとして…おばさんは?」
マテ「…。」
ボトン「おばさんはどうなるの?オッパ、嘘はやめて!そんなこと言って私が信じると思ってるの?!」
マテ「…。」

マテはテーブルの上のキソクとミスクの写真を拾い上げ、ボトンに突き出した。

マテ「お笑いじゃないか?」
ボトン「…。」
マテ「俺の母さんでもなく、父さんでもない。何の関係もない人たちの写真を見つめてメソメソ泣いてたなんてな」
ボトン「…。」

「哀れなやつだ」マテは自嘲するように呟くと、写真を引き裂く。

ボトン「!!!」

ビリビリに破れた写真が床に飛び散る。
ボトンは驚いてマテの袖を掴んだ。

ボトン「オッパ、どうしたの?こんなことしちゃダメだよ!ね?」
マテ「お願いだ」
ボトン「…。」
マテ「俺の人生から…出て行ってくれ」
ボトン「!」



信じがたい言葉に、マテの腕を掴んでいた彼女の手が…力を失って離れる。
マテの虚しい視線のその先で、彼女の瞳からとめどなく涙が溢れた。

+-+-+-+

ここでエンディングです。
マテのセリフがものすごく小声だったりで分かりづらかった部分があります。そういうところは少し雰囲気で訳してますが、お許しください。

えっとー。

マテがボトンを遠ざけたからって、ナ・ホンランの望みには全く叶っていないわけで、彼がそこにいる以上何らかの攻撃は続くと思いますが、今そういう野暮なことをごちゃごちゃブータレてちゃダメなんですよね?^^;

私は病室をそっと覗いてそのまま立ち去った時点で、マテはどこかに黙っていなくなるのかと思ってました。
普通に社長室にいたので「あれ?」なんて^^;

で、ボトンってマテの実母がホンランだっていつ知ったんでしたっけ?
私がすっかり忘れちゃってるのかなー。
警察に知らせるなと言ったのは、きっとホンランがマテの実母だと知っていたからだと思うんですが…。
ダビデはムンスとバーで飲んだ時、「全部聞きましたよ」とムンスが曖昧に言ってましたが、彼も直接聞かされてませんよね?
置いてけぼり感を感じてしまい、これも悲しいシーンに入り込めない一因に。

【追記】Twitterでご指摘頂きました。マテが事実を知って納骨堂へ来た時、後からボトンも探しに来たんでしたね。私ったら忘れっぽい^^;

それにしてもIUちゃんの演技が素晴らしい。
ボトンという人も気持ちも手に取るように分かる。
原作ではここまで親しみを感じなかったボトンですが、彼女が演じてくれて良かったです。

さぁ、次に進もう。
マテとダビデがバトンタッチしたところで、二人にどんなやり取りがあったのか、それが知りたい。






2 件のコメント:

  1. 翻訳、ありがとうございますm(_ _)m
    とても楽しみに待っていました。
    ユジナさんの訳のおかげでドラマがより一層面白くなりました。
    膨大なセリフだけではなく、情景まで分かりやすく訳してくださり感謝しています。
    残り一話、お疲れの出ないペースで構いませんので(^_^;)
    よろしくお願いします(*^◯^*)

    返信削除
  2. takahara
    訳文ありがとうございます。ダビデがボトンの救出に行った際 木づちがあったのは
    偶然なのでしょうか?それともヨミムが置いていったのかな?ってちょっと気になりました。^^

    返信削除

記事を読んでくださってありがとうごございます。
コメントの際はお名前を入れてくださると嬉しいです。