さっそくどうぞ。
+-+-+-+
突然やって来たマテに呼ばれ、外へ出てきたボトン。
家の前には車の中で待っているマテの姿が見えた。
ボトン「えっ?オッパ、車買っちゃったの?(がっかり)なんだぁ…。そう言えばオッパの車の乗るの、初めて!狭い空間に二人っきり…?はっ!どうしよ~♥ どこに乗ろうかな?助手席?オッパのすぐ隣…それはダメよね、私なんかがオッパの隣なんて。後ろに乗ろうっと。いや、それじゃ生意気すぎるんじゃないかな?あはっ、どうしよう~♪」
そのとき、イライラしたマテがクラクションを鳴らす。
「オッパ、今行きまーす!」ボトンが駈け出した。
助手席のドアを開け、隙間から後部座席にもぐり込もうとするボトン。
マテ「何やってんだ、お前?」
ボトン「(戸惑いながら助手席を指す)ここ…座っていいんですか?」
面倒くさそうにマテが手招きをすると、ボトンはいそいそと助手席に乗り込んだ。
ボトン「突然来たから私、ちゃんと準備もでき…」
マテ「シートベルト」
ボトン「はぃ」
ボトンがシートベルトを掴み、体の前を回そうとすると、マテはエンジンスイッチを入れ、車をバックさせようと振り返った。アクセルを踏み込むと、車が一気に後ろ向きに走りだす。
ボトン「♥♥♥」
いい男が後ろを振り返って助手席に手を回し、車をバックさせる仕草。
それはテッパン中のテッパン!
それがマテオッパならもーたまりまへん。
ボトンが我を忘れてうっとりと口を開けていると、マテが車を止めた。
マテ「前見てろ」
ボトン「はい!」
車はふたたび走りだした。
+-+-+-+
二人を乗せた車は気持ちのいい晴天の空の下を軽快に進む。
ボトンは助手席の窓から外を眺め、ワクワクと期待を膨らませていた。
ボトン「ところでオッパ、今どこに向かってるんですか?」
マテ「行けば分かる。俺だって分からない」
ボトン「(苦笑)オッパも知らないんですかぁ」
マテ「…。」
ボトン「(再び窓の外を見て)郊外に向かってるみたいだけど…」
すると、道路の脇には「モーテル」「ホテル」の文字が…。
ボトンは心の中で低く笑った。
ボトン(心の声)「うふふ、ウブなボトン、バイバーイ♥」
車はホテル街を素知らぬ顔で通り過ぎる。
ボトン「?通り過ぎちゃうの?(がっかり)」
マテ「頭引っ込めろ。サイドミラーが見えないだろ」
ボトン「はぃ(まっすぐ座り、モジモジ)けど、こんなこと言うのも何だけど、これって完全にデート…」
マテはこれ以上喋るなとでも言いたげに、カーステレオのボリュームを一気に上げた。
+-+-+-+
ひとしきり走ると、マテの車は何の変哲もない倉庫の前まで来て停まった。
降りた二人は緊張した面持ちで建物を見上げる。
マテはポケットから取り出したキーを見つめた。
ユラから受け取った、あのキーだ。
~~ユラの家で
ユラ「ここから始めてみて」
マテ「何です?これ」
ユラ「倉庫の鍵よ。そこにあるものを利用して最初の一歩を踏み出すの」
~~
倉庫の入口の前で、マテは鍵を握りしめた。
マテ「(ボトンに)お前、俺のために働け」
ボトン「え?」
マテ「嫌か?」
ボトン「いえ!そうじゃなくて…。バイトみたいなことですか?」
マテ「バイトじゃない。一生掛かるかもしれないからな」
ボトン「?」
考えこむボトンの横顔を、マテがチラリと覗った。
マテ「その代わり…」
ボトン「?」
マテ「俺の顔、毎日見せてやる」
ボトン「!」
ボトンの頭の中で天秤がギシギシと揺れ始める。
『私の人生全て』VS『オッパの顔を好きなだけ見ること』
ボトン(心の声)「いくら私が世間知らずでも、取引っていうのは元々両者同等のものを交換することなのに…」
「俺の顔」を特典に出したのに、まだ悩んでいるボトンに不安になってくるマテ(笑)
ボトン「オッパ!どう考えてもこれってどこか不公平ですよ!」
マテ「…。」
ボトン「一生まるごとオッパに捧げて、オッパの顔を見るなんて」
マテ「給料は俺が…」
ボトン「それじゃオッパがあまりに損でしょー!」
マテ「?!」
ボトンの頭の中の天秤で『オッパの顔を好きなだけ見ること』がガクンと重たく下がる。
ボトン「オッパの顔はめちゃくちゃ大事なのに、ちっぽけな私の人生なんか!」
マテ「…。(うんうん うんうん)」
ボトン「それで私、何すればいいんですか?」
マテは黙って鍵を差し出した。
ボトン「ですよね。オッパの手に錆がついちゃダメよ。(鍵を受け取り)私が開けますね♪」
ボトンが鍵を差し込むと、それはスムーズに開いた。
期待を高まらせ、マテの口角が上がる。
重い扉を開けると、外の光が暗い倉庫内に差し込んだ。
二人が中へ入るとそこには…
ダンボールの山、山、山!!!
埃にまみれた箱を開くと、「ん?」とボトンが小さな声を上げた。
中に入っていたのは、何の変哲もない安っぽい白靴下だ。
ボトン「オッパ、これ全部…どうするんですか?」
隣の箱を開けてみると、そこにも白靴下がぎっしり入っている。
ボトン「びっくり…。これ全部靴下みたい」
マテ「?!」
ボトン「オッパ、私たち靴下売るんですか?」
驚いたマテがそこらじゅうのダンボールを開ける。
靴下、靴下、靴下!
ダンボールには『2008年8月』の文字が刻まれている。
うんざりした顔でマテが倉庫を出て行った。
ボトン「オッパ、どこ行くんですかー!」
+-+-+-+
マテはさっそくユラを呼びつけた。
マテ「ざっと見ても数万足はありそうだったけど、製造後5年も経ったあの靴下を一体どうしろというんですか?」
ユラ「投資なしに商品を手に入れたなら、喜ぶべきなんじゃない?」
マテ「(呆)1足売っていくらになるんだか…。分かりました、仮に売るとしましょう。数万足を売る間に何年も経つだろうに、それも訓練だって言うのか?」
ユラ「倉庫の中に札束でも詰まってると思った?」
マテ「…。一体あれをどうしろと言うんです?」
ユラ「あの靴下をどうしようと、それはあなたの自由よ。ただし、ナ・ホンランに立ち向かえる場所までのし上がるには、一刻を争う状況。それだけ分かっておいて頂戴」
マテは途方に暮れて溜め息をついた。
マテ「それがわからないんだ。あんな靴下を売ってはした金を手に入れたところで、ナ・ホンランと戦えるのか?」
ユラ「はぁ…、はした金とは。マテ、お金の怖さを知らないのね」
マテ「…。」
ユラ「ジェッキを征服してみなさい。そして、お金というものがどういうものか学ぶのよ、ジェッキからね」
マテ「…。」
+-+-+-+
『第一の女 金持ちの女 ジェッキ』
ユラ(声)「女子商業高を卒業して、何も知らずに就職したのが不動産業界。そこで初めて不動産業に開眼したの。その頃購入した古いたった二部屋のアパートが、再開発のためにとんでもない儲けになったのよ」
慌ただしく不動産入札手続きがやりとりされている会場をさっそうと歩くジェッキ。
部下の差し出した資料を一瞥し、「20億に増やして提出してくださいな」
ジェッキは落ち着いた表情で席につく。
部下が記入を終えた入札票を封筒に入れた。
ユラ(声)「全国のアパート、土地、ビルディング、彼女が手を付けるたびに大儲け。不動産業界では幸運の女神として伝説になったわ。15年間に渡り投資して、今や全国70万坪に広がるのオーナーよ。時価総額1900億」
入札を終え、会場を出てきたジェッキを部下が追いかけた。
部下「はぁ、増やさなきゃ逃すところだった!やはりジェッキ社長は儲けるセンスがある!やはり不動産業界の幸運の女神と呼ばれるだけのことはおありですねぇ」
ジェッキ「(立ち止まり)儲けるセンスがあるんじゃないわ。お金とは何か、一生懸命勉強しているんです。部長が毎晩(お酒を飲む仕草)弾けている間にね」
部下「…。」
ジェッキについて説明を受けても、マテはまだ納得がいかなかった。
マテ「(ユラに)なぜよりによってジェッキさんなんです?金持ちならいくらでもいるはずだ。ファンドマネージャーとか、そういう人たちに学ぶべきなんじゃないのか?」
ユラ「自分のレベルにピッタリ合うテキストで勉強してこそ成績が上がるのよ」
マテ「…。」
ユラ「マテという男が最も早く、たやすく知恵を得られる場所はどこ?女たちなんじゃないかしら?」
マテ「…。」
ユラ「女たちを征服しつつ、知恵を身につけるのよ」
マテはじっと考えこむ。
マテ「気になることがある」
ユラ「…。」
マテ「征服すべき女たちの中に…あんたもいるのか?」
ユラ「…。」
マテ「…。」
しばらく黙って見つめると、ユラは笑った。
ユラ「セクシーな質問ね」
マテ「…。」
ユラ「今はまだそこまで答案紙がないんだけど。…私も気になるわ」
マテ「…。」
+-+-+-+
「オッパッ♪」
ボトンは出掛ける支度を整えると、自宅から張り切って電話を掛けた。
ボトン「私、どこに出勤すればいいですか?倉庫の掃除でもしましょうか?」
マテ「倉庫のことは口にも出すな。あれの処分のことで頭が痛いんだ」
電話が切れると、ボトンはシュンと顔を曇らせる。
…と、あっという間に復活だ。
ボトン「(電話に向かって)こらこらこら、トッコ・マテ!うちのマテ、靴下を売りたいってアピールをそんなふうにするわけ~?ふふふ~ん♪それなら売ってあげなきゃね」
ボトンが動き出した。
+-+-+-+
マンションのソファーで、マテはじっと横になっていた。
静まり返った部屋には時計の秒針の音だけが忙しく響く。
マテ「何でこんなに遅いんだ?」
マテの腕で時計がぐるぐると回り続ける。
マテ「早く来い。じっとこの姿勢は…辛いぞ」
そこへ巨大な自動ドアが開くと、ジェッキが前のめりでトコトコと駆け込んできた。
#この一瞬映るジェッキの走り方が可愛いすぎる。上手いなぁ
マテ「おっ!」
マテは慌てて表情を整える。
ソファの物憂げなマテを見つけると、ジェッキは顔をとろけさせた。
ジェッキ「(我に返り)ごめんね、マテ。買わなきゃいけないビルがあって最近忙しくて。
マテがゆっくりと視線を上げる。
マテ「(超ソフト)お帰り。(物憂げに)考え事をしてて…入ってくる音も聞こえなかったな」
静かに起き上がると、ジェッキがいそいそとそばに腰掛ける。
彼女は心配そうにマテの顔を覗きこんだ。
ジェッキ「悩み事なの?」
マテ「(超ソフトを保ちつつ)倉庫に…処理しなきゃならない物があるんです」
ジェッキ「そうなの?倉庫なんて…(笑う)マテには似合わないわね。倉庫に何があるの?」
マテ「靴下です。売らなきゃいけないんだけど、10万足はありそうで」
ジェッキ「一時でも早く売らなきゃ。持ってても仕方ないわ」
マテ「現物をご覧になっていないから言えるんです。1足あたり100ウォンでも売れるかどうか。奇跡が起きて全部売れたとしても、たかが1000万ウォン程度だ」
「マテ…」ジェッキが彼を見つめ、静かに名を呼んだ。
ジェッキ「1000万ウォンを”たかが”だなんて言っちゃ駄目」
マテ「?」
ジェッキ「今や私の財産は1000億を超えるけど、私だって最初は1000万ウォンで出発したの」
マテ「…。」
今まで装っていたマテの表情が変わる。
ジェッキ「マテ、お金っていうのはね、取るに足らないと思えばあっさり消えて行くけど、尊く思えば気高く育つの」
マテ「…。」
ジェッキ「お金は生き物なのよ」
マテの頭の中にユラの言葉が蘇る。ジェッキを征服し、お金が何か彼女から学べと…。
マテ「…。」
ジェッキ「(微笑)私が手伝おうか?」
マテ「いいえ。せっかく始めたこと、自分の力でやってみたいんです」
ジェッキ「そうね。それもいい心がけね。自分で解決するのが一番早く学ぶ道よ」
マテ「…。」(あっさり突き放されて期待はずれ
ジェッキ「知ってる?男が一生懸命仕事をする姿がどれほどセクシーか」
マテ「…。」
ジェッキ「あなたのそんな姿が私を狂わせるの。(マテの胸元のファスナーを外し、中に手を滑り込ませる)そんな男なら全て捧げても惜しくないわ」
マテ「…。」
マテの頭の中で彼の声が響く。
マテ(心の声)「全て捧げても惜しくないなら靴下売ってくれてもいいだろーが。キム・ボトンならとっくに背負って売り歩いてるぞ」
+-+-+-+
そ・の・こ・ろ
ボトンは背中に背負ったマネキンの足に白靴下を履かせ、路上で叩き売ろうと頑張っていた。
ボトン「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!靴下3足で1000ウォン!(通りすがりの女性を捕まえ)お姉さんお姉さん!アメリカン1杯でこの靴下6足買えますよ!一年は持つよ~、どうぞ見ていって!」
女性が足を止めたのをきっかけに、何人かの人が立ち止まり、靴下を手に取る。
そこへ警笛の音が聞こえ、警察が走ってきた。
警察「お嬢さん、ここは駄目ですよ」
ボトン「すみません、あと30分だけ!」
警察「罰金払うことになりますよ。とりあえず(マネキンが履いた靴下をスルリ)品物は押収します」
ボトン「あんたたちオッパの品物を押収するつもり?!!!」
警察「このおばさん頭おかしいのか?」
ボトンが抵抗すると、背中のマネキンが彼女の動きに合わせてぶるんぶるんと警察官たちを蹴散らす。
ボトン「近づかないでよ!!!」
+-+-+-+
マテは警察署の前で眩暈すら感じていた。
しばらく躊躇すると、彼は意を決して中へ入る。
「凶器をお使いになった場合、釈放するのは難しいんですよ」
婦人警官がキラキラした目でマテを覗きこむ。
マテの隣にいたボトンが不平を訴えた。
ボトン「凶器だなんて!(マテに)そんなんじゃないの、オッパ」
婦人警官がマテを見つめたまま、マネキンの足をトントンとペンで叩く。
婦人警官「これくらいの物ならちょっと当たっただけで大怪我することもありますよ」
マテ「…。」
婦人警官「ひょっとして…俳優さん?」
マテ「(ジロリ)」
婦人警官「(目を輝かせ)どこかでお見かけした気がするんだけど」
そこへボトンが割って入った。
ボトン「ちょっと!質問は私にしてくださらなきゃ。どうしてオッパになさるんです?」
婦人警官「(ボトンを押しのけ、マテに)初めてだから今日は釈放して差し上げますね」
婦人警官はペロリと舌なめずりをし、マテに身を乗り出す。
婦人警官「…イイ男だわ」
マテ「(のけぞる)」
ボトン「(阻止)私に言ってよ、私に!」
婦人警官「驚かせないで!(どきな!の仕草)」
マテ「あの、どうすればいいんです?」
婦人警官「どうすればいいかと言うとね、今日は保護者としていらしたでしょう?だから、ここにサインをなさって…」
婦人警官は悩ましげに溜め息をつくと、立ち上がり、マテに迫った。
婦人警官「今後また…こういうことが起きたら…」
マテ「(さらにのけぞる)」
婦人警官「そのときは帰してあげられそうにありません。どうしようもないんです」
マテ「えぇ。(婦人警官が持っている調書を手に取る)」
婦人警官「大目に見てはあげられませんから!」
マテ「…えぇ」
+-+-+-+
「オッパ、ごめんなさい!」
警察署の外へ出てきたマテを、ボトンはマネキン足隊を背負って追いかけた。
ボトン「どうにかして売ろうと思って…」
マテ「(じっと目を閉じる)」(←この怒ってる横顔がいいよね
ボトン「私から喧嘩を売ったわけじゃ絶対になくってね」
マテ「…帰れ」
ボトン「(溜め息)それが…終電出ちゃったんだけど」
マテ「サウナにでも泊まれ」
ボトン「(マネキン足を撫で撫で)これ、ロッカーに入るかどうか」
マテ「それなら捨てろ!」
ボトン「これ、やっとのことで死守したのに!捨てるくらいなら家まで歩きますから!」
マテ「好きにしろ」
ボトン「!」
車のキーロックを外し、ドアノブを引っ張るマテ。
「?」なかなか開かないドアに、マテはイライラを募らせた。
マテが車に乗り込み、エンジンが掛かると、ボトンは呆気にとられて笑った。
ボトン「京畿道鳥山まで…。歩けばまぁ明日明後日くらいには着くよね」
反対側へトボトボと歩き出したボトンの様子を、マテは運転席で見つめた。
うんざりと首を横に振ったマテが車をバックさせると、ボトンの隣で停まった。
ボトン「…。」
マテ「(前を向いたまま)乗れ」
ボトン「え?」
マテ「乗らないのか?じゃ、帰るぞ」
ボトン「はっ、乗ります!乗りますよぉ!」
大喜びで助手席に回ると、ボトンはまずマネキン足隊を乗せようとした。
マテ「おい、それ持っていかなきゃいけないのか?」
ボトン「借りたものだから返さなきゃ」
乗るやいなやマネキンはマテの首に足蹴りをお見舞いした。
マテ「あっ!こんなんで行けるかよ!!!」
スラリと美しいマネキンの足を四方から突き出し、車は出発した。
#ポルシェの歴史にまた新しい1ページが
+-+-+-+
「わぁ、すごい!!!」
マテのマンションに入ってくると、ボトンは溜め息を漏らした。
ボトン「オッパ、ここに一人で住んでるんですか?」
マテ「こっちだ。トイレはあっち。朝起きたら退場」
ボトン「のどが渇いたら?」
マテ「我慢しろ」
ボトン「…。」
+-+-+-+
マテに言われたとおり、入口すぐの部屋に入ると、ボトンは床にマネキン足隊を鎮座させ、考えを巡らせた。
ボトン「私がおとなしく退場すると思ってんの?難攻不落の城に無血で入城♪(鼻をヒクヒク)はぁ、オッパの匂い!オッパが眠ったらガバっと!…はぁ、どうしよう~♪」
+-+-+-+
翌朝。
すっかり身支度を整えたマテがボトンの部屋の前へやってくると、コンコンとノックをする。
マテ「?」
返事がない。
マテは呆れて笑った。
マテ「何のつもりだ?」
マテが中へ入ると、ボトンは布団の中で苦しそうに目を開いた。
ボトン「オッパァ…」
マテ「今度はどうした?」
ボトン「昨日ちょっとビックリしたみたい。(額に手を当て)熱が…くらくらするわ」
マテ「下手な芝居はやめてさっさと帰れ」
ボトン「(笑)はい、ごめんなさい」
ボトンは素直に起き上がると、再び「あぁ」と声を上げて額を手で押さえる。
ボトン「熱が上がっちゃって…。下がるまでここにいちゃ駄目ですか?」
マテは彼女のそばにしゃがむと、おでこにペチンと手を当てた。
マテ「熱っ!」
ボトン「…。」
マテ「…1時間したら出てくんだぞ。それ以上粘ろうなんて思うな」
ボトン「…はい。ちょっと横になりますね」
「はぁ、クラクラする~」と呻きながら、ボトンは再び布団に横たわった。
マテの出て行く音が聞こえると、ボトンはニヤリと笑う。
「ふふふ」 してやったり。可笑しくて笑い声が漏れる。
ボトン「私が馬鹿だと思う?帰るわけないでしょ」
彼女は布団の中に隠していたカイロを額に当て、その効果に感心してまた笑った。
行動開始だ!
ボトン「さてと!マテハウスツアー始めるとするかな♪ふふん」
+-+-+-+
まずボトンが飛び込んだのは大きなベッド。
ボトン「オッパ、ここで寝てるのかな?(枕にチュー)私、ここで暮らしたぁい!はぁ、オッパ♪ふふふ」
次にやるべきことは、マテオッパの白ワイシャツを羽織ること。
ボトン「女の子の夢!彼氏の家に泊まった翌朝、大きなシャツと(匂いを確認)大きなズボンを履いて、ボーイフレンドスタイル♪」
棚からマテのズボンを出し、履こうとするがなかなか上がらず…。
ボトン「あれ?うちのオッパこんなに細いの?はぁ、ビックリ」
ボトンはマテのクローゼットを見渡すとリズムを取り出した。
ボトン「(ラップ調)わたしより脚が細くてもOK!あなたの脚は私の脚!私の脚は大根足!Yeah」
ドレッサーの前へ来ると、鏡の前のローシュンを手に振る。
ボトン「私より小顔でもOK!あなたの顔は私の顔!私の顔は…(ローションを手に広げてパン!)いい感じ!Yeah♪」
そして…
洗面室にやってくると、そこでまたボトンは目を輝かせた。
ふいに目に飛び込んできたのは…水色の持ち手の歯ブラシ!
彼女は思わずそれを手に取った。
ボトン「オッパ…。こんな豪華な家に住んでても、昔の癖は残ってるのね」
急に切ない表情でつぶやくと、ボトンは使い古された様子の歯ブラシの毛を見つめる。
ボトン「(切ない)毛先がこんなになるまで…」
食い入るように歯ブラシの毛をじっと見ているうちに、ボトンの心の中で何かがムクムクと膨れ始めた。
ボトン「ということは…。毎日オッパの口に出たり入ったりしてるこの歯ブラシは…」
緊張して息を吸って吐いて…彼女は意を決してその歯ブラシを自分の口へ!
そして一気に歯をゴシゴシ!!!
一心不乱に歯を磨く!
ボトン「私もう死んでもいいー!」
そこへ電話が鳴り始めた。
ボトン「ん?」
携帯画面には「マテオッパ♡」
ボトン(電話)「オッパ、ごめんなさい!私やっと具合が良くなってきて」
マテは出掛ける車の中で電話を掛けていた。
マテ(電話)「さっさと出てけよ」
ボトン「(歯ブラシ咥えたまま)このまま帰れませんよ。しっかり掃除して出ていきます。もうすっかり熱も下がったから」
マテ「そうか?それじゃ洗面台を掃除しといてくれ。洗面台に古い歯ブラシがある」
ボトン「?!」
マテ「水垢を掃除する専用だから、使ったら元の場所に戻すんだぞ」
ボトン「…。」
マテ「声が変だな。歯磨きしてんのか?」
ボトン「(茫然)そんなわけないですよ。歯ブラシもないのに」
電話が切れた。
ボトン「私の人生25年。ファーストキスが水垢だなんて…。あぁ、人生よ!何でこーなるのぉ?!」
+-+-+-+
マネキン足隊を最後まで大事に背負い、ボトンは家に辿り着いた。
ボトン「はぁ、オッパの仕事を手伝っててバイトも出来なかった。ソウルを行ったり来たりして経費だってバカにならないのに。どうしようかなぁ」
ふと見上げると、見慣れたボトンカルビの看板に描かれたピンクの豚のイラストが目に入る。
「ふふっ」とほくそ笑むと、ボトンは家の中に入った。
「カルビを売ればいいのよ~」店のキッチンに入ってくると、天井には防犯カメラ。
ボトン「はっ!(そーっと後ずさり)家族同士でこんなに厳重に防犯するわけ?(呆れ笑い)家族愛なんて…。ふぅ、バンザイよ、家族バンザイ」
+-+-+-+
ボトンは公園にやってくると、部屋から持ちだした物をシートの上に広げた。
#懐かしい公園^^
人にはガラクタに見えても、ボトンにとってはお気に入りの物ばかりだ。
ボトン「(人形を手に取り)あんたまで売らなきゃいけない?お金稼ぐのって辛いね」
サングラスをつけて気合を入れると、ボトンは小さなメガホンを手に立ち上がった。
ボトン(メガホン)「明日もやってるだろうから~なんて安易な考えで逃したら後悔しますよ~!この世でたった一つの大事なグッズたち、ご覧になってくださーい!」
見向きをする人は誰も居ない。
ボトンは辛抱強く通行人に声を掛けた。
ボトン「…人がいないな」
そこへ、黒いコートの男性が一人、近づいてきたと思うと、品物の前に腰を下ろした。
ボトン「…!ゆっくりご覧になってください。いいものたくさんありますよ」
男性は何も言わず、真剣な表情でキョロキョロと品物を見つめる。
何気なく黒いハットを手に取ると、下から長い髪が飛び出し、「おっ!」と男性は声を上げた。
男性「これ、ひょっとして手作り?」
ボトン「(サングラスを外してニヤリ)お目が高い!」
ボトンも男性の正面に腰を下ろし、話し始めた。
ボトン「これはね、10日掛けて1本ずつ付けたんですよ」
男性「これは端の処理が大事なんだ」
ボトン「おぉ~!よくご存知ね。中を調べてくださいよ。端の処理もすごく綺麗でしょ?」
男性「そうですね。これ、レゲエ風にしてもかっこいいな」
ボトン「(指をパチン)その通り!」
男性「?」
驚いて男性が見つめると、ボトンは楽しそうに笑った。
男性「いくらです?」
ボトン「お目が高い人にはオマケしなきゃね。これ、もともとは(指を2本だす)」
男性「2万ウォンね(ポケットに手を)」
ボトン「20万ウォンなんだけど」
男性「!」
ボトン「17万ウォンにしておきますよ」
男性は手に持った帽子をちらりと見た。
男性「手間賃お掛かっただろうし、20万お支払いしますよ」
そう言って男性はニッコリと笑った。
+-+-+-+
自宅に戻ってきたマテは、中へ入ると、家を見廻した。
マテ「掃除はちゃんとしたんだな」
ソファに腰を下ろすと、マテはボトンに電話を掛けた。
トゥルルルル、トゥルルル
ちょうどその頃、ボトンは男性から20万ウォンを受け取っている真っ最中。
下に置いてある電話が「ウー」と音を立てているのには気づかないでいた。
マテ「(呆れて笑う)キム・ボトン、俺の電話を無視するってか?」
+-+-+-+
「ちょっと待って!」
ボトンは立ち去ろうとした男性を呼び戻した。
ボトン「(帽子の)その髪、定期的にトリートメントしてくださいね。100%人毛なんです」
男性「へぇ~。どことなく人工的な感じがしないなぁと思ったんですよ」
ボトン「(うんうん)」
男性「気に入った」
ボトン「うふふ」
男性「カラーリングも出来るんですね?それじゃ」
ボトン「えーと、それは…。私、そこまで試してはいないだけど、まぁできるんじゃないでしょうか」
男性は困ったようにウィッグ帽子を見つめた。
男性「ダメかなぁ。ダメならメリットないんだけど」
ボトン「あ、一度被ってみてくださいよ。被ってみれば全然感じが違いますから」
男性「あぁ、じゃあ。鏡は…」
ボトン「(手を伸ばし)ください。私が被ってみます」
男性から帽子を受け取ると、後ろを向いてそれを被り、彼女はもう一度男性を振り返った。
ボトン「ふふん♪どうですか?なかなかでしょ?」
男性「!」
ボトンの笑顔が男性の目にまっすぐ飛び込んでくる。
男性「き、きれいです」
+-+-+-+
まだ電話に出ないボトンに、マテの目は順調につり上がっていた。
マテ「キム・ボトンめ!!!」
+-+-+-+
ここでエンディングです。
あー 楽しかった。
ボトンの夢はみんなの夢。
これからもオッパのためになりふり構わず直進してくださいな♪
ジェキさんの仕草はほんとかわいらしいですよね♥
返信削除「ボトンの夢はウナギの夢」とは...ユジナさん!よくわかってらっしゃるぅー!!(*≧∀≦*)
こんにちは♪
返信削除読みながら笑いがこらえきれません。
もーたまりまへん…て(笑)
綺麗な男、本当に面白いですね~私はこの監督の作品好きなのでなんとなく見たのですが嵌りました!ユジナさんの訳もお上手で感動~!可愛い変態ドボンも大好きだし、グンちゃんも演技が上手ですね~あと、女優さんたちが美しい!今週も楽しみです^^
返信削除またまたありがとうございます。ジェキとマテの会話がそんな話しだったとは!占い師との話しも!!なんとなくわかってるだけでは やはりダメだなあ。。ありがたいです。ジェキ 可愛いですよね♪ 素敵な訳 また 楽しみにしてます。緑色のコメントも好きです!
返信削除笑いっぱなしで一気に読ませていただきました(*^^*)もしかして翻訳しながら笑いがとまらなかったりされましたか?
返信削除とてもテンポのいいドラマで1話も2話もあっというまだった気がします♪
これからの展開が楽しみで仕方ありません(*´∇`*)
緑のオリジナルコメントももっと拝見したいです!素敵な翻訳、本当にありがとうございます(#^.^#)
今晩は(^-^)
返信削除翻訳最高です(*^_^*)
大変な作業ですよね~!
本当にありがとうございましたm(_ _)m
なりふり構わず直進!~
返信削除あぁ~まるで今の私、、、
ボトンちゃん화이팅 o(^o^)o
心で叫びました!
オッパに直進のボトンちゃん
歯ブラシは、、、(TT)
残念
懐かしの公園♪
メリ、ラブレイン、綺麗な男
連続出演!♪(*^^*)
楽しいドラマになりそうで嬉しいです(*´ω`*)