綺麗な男1話、後半に入ります。
ではさっそく~
+-+-+-+
誰かに殴られて顔を赤く腫らした後輩を前に、マテは呆れていた。
マテ「一体どうしたんだ?」
後輩「俺さぁ、兄貴の言うとおりマジで頑張ろうと思って、イケメン立ち飲み屋を始めたんだ」
マテ「(呆)」
後輩「最近そういうのが流行ってるだろ?だからってどこもかしこも立ち飲みだなんてさ(涙声)ヤクザのおっさんにやられちまったんだ」
マテ「だから、開業する金が貯まるまでちゃんとしたとこで働けって言ったろ?こんなことしてる場合かよ!」
後輩「知るかよ。俺は続ける。呼ばれたら行かなきゃダメだろ。じゃないと値が落ちるばっかだ」
マテ「お前、そういうとこへは行くなって言ったろ!お前、一生女に酒ついで生きてくつもりかよ?」
後輩「兄貴にそんなこと言われたかないね。それで、どうなんだよ?チェク社長(ジェッキ)のことホントに好きなのか?」
マテ「…。」
後輩「なんだよ~」
マテ「…。」
俯いて考えこむマテの表情に、後輩は俄に戸惑った。
後輩「愛なんか重要じゃないって。愛は冷めて消えたりするけど、金はそんなことないだろ?」
マテ「…。」
後輩「チェク社長、財力あるんだからさ」
マテ「(ふいに顔をあげる」砂肝食うか?」
後輩「?」
+-+-+-+
ボトンはマテの母と共にバス停に来ていた。
ボトン「おばさん、私たちどこに行くんですか?」
マテ母「会いたい人がいるのよ」
ボトン「友だち?」
マテ母「いっそ友だちなら良かった…そんな人」
ボトン「?…友だちだったら良かった人?ふふっ、友だちならどうしていいんですか?」
マテ母「それならそばにいられるでしょう?」
ボトン「…。」
マテ母「いつまでも…ずっとそばで」
ボトン「…。」
マテ母「一緒に行ってくれて嬉しいわ。最近は年をとって元気も出ないし、ソウルの道もよく分からなくて」
ボトン「(私は嬉しいです!おばさんと遠足に行くみたい^^」
腕にしがみつき、ニッコリと笑うボトンを、マテの母は微笑ましく見つめた。
+-+-+-+
静かな茶屋で、マテの母は一人の男性と向き合っていた。
彼女の顔を男性は穏やかな笑みを浮かべて見つめる。
マテ母「お久しぶりです」
男性「…。」
マテ母「顔色が悪いようですね。どこかお悪いんですか?」
男性「年には逆らえん。年をとったからだよ」
マテ母「…。」
男性「君は相変わらずだ。年をとっても美しい」
マテ母「(笑)冗談をおっしゃるなんて、会長も年をとられたんですね」
会長と呼ばれた男性は笑った。
ボトンは茶屋の庭で無邪気に落ち葉を拾っている。
会長「マテは…元気でいるのか?」
マテの母は卓上にお茶の器を置き、俯いてはにかんだ。
マテ母「…えぇ。立派に成長して、眩しいくらいです」
会長は何も言わず、嬉しそうに微笑んだ。
会長「君から誘ってくれたのは初めてだから、心配したんだ」
マテ母「…。」
会長「何かあったのか?」
マテ母「いえ、何も…。ただ、とてお会いたかったんです。ただ、それで」
微笑む会長を、マテの母はまっすぐに見つめ返した。
+-+-+-+
会長と別れてベンチに座っていると、ボトンが駆け寄ってくる。
ボトン「ジャン!」
後ろに隠していた手を前に回すと、彼女は色とりどりの落ち葉で作った『花束』ならぬ『葉束』を差し出した。
マテ母「?!」
ボトン「ふふっ」
マテ母「捨てられていたものも、ボトンの手に掛かればこんなに綺麗になるのねぇ」
ボトン「綺麗だなんて!綺麗なのはオッパですよぉ」
マテ母「マテのことがそんなに好き?」
ボトン「こんなに好きで私も困ってるんです。おばさん、私ね、オッパに会った途端、立派な仕事をする男になるって分かったんですよ!江南に住んでるってことは、すごく有能な人間になったってことでしょう?はぁ、私も早く研修終わらせなきゃ」
ボトンを見つめていたマテの母は、一度『葉束』に視線を落とした。
マテ母「ボトン」
ボトン「え?」
マテ母「そのうち…。そのうち、もしもの話よ、おばさんがマテオッパのそばにいられなくなったら…」
ボトン「…。」
マテの母はもう一度笑顔でボトンを振り返った。
マテ母「そのときはボトン、あなたが今みたいにオッパを気遣って、可愛がってあげてくれる?」
ボトン「(笑)もちろんですってば!それが私の将来の夢…!おばさん、どこかに行っちゃうんですか?」
「ううん」そう首を振り、マテの母はボトンを愛おし気に見つめた。
マテ母「ボトン、本当に可愛いわ」
ボトン「…。(照)エヘッ、そう言ってくれるの、おばさんだけです」
マテ母「^^」
ボトン「私、正直言うとね、オッパの足の小指ほどでも可愛くなれたらなぁって」
そう言って笑うボトンにつられて笑うと、マテの母は彼女の頭を優しく撫でた。
+-+-+-+
ホテルのラウンジに甲高い笑い声が響く。
女「名前、マキって言ったっけ?」
奥のソファで澄ましているマテの隣に、ジェッキは自慢気に寄り添っていた。
ジェッキ「テよ。マテ(咳払い)」
女1「まだ若いしイイ男よね。一体ジェッキのどこがそんなに気に入ったの?」
ジェッキ「♪」
ジェッキが彼の返事に期待して、マテを見つめる。
マテ「金を持ってるからです」
女2「まぁ!超正直ね!」
思わず笑うジェッキ。
女2「マテさん、ジェッキがどれほど凄い人だか分かって付き合ってるんですよね?1000万ウォンから始めて、今や2000億の不動産の財閥よ」
ジェッキ「マテは事業のことはよく知らないわ。ただ漠然と”ちょっとした金持ちなんだな”くらいに思ってるの」
女1「よく知らないって?そんなのあり得る?」
女3「あたしたち、だからあんたのことが心配なのよ、純情チャンなんだから。(マテに)お宅を見てピンときたわ。お金目当てに近づいて、甘い汁だけ吸って逃げる蛇よ」
マテ「(微笑)」
女3「(薬指の指輪を見せ)結婚指輪を懸けるわ」
ジェッキ「ちょっと!あんたなんてこと言うのよ!マテのこと知りもしないくせに。(マテに)マテ、気にすることないわ。あの子、前から口が悪いのよ」
マテ「(平然)いいんです。人妻はみんなそうでしょう。旦那が他の女と浮気すれば、その度に相手が金目当てだと思わないとプライドが保てないんですから」
女3「…。」
マテ「習慣なんですよ」
彼の余裕に、ジェッキはさも愉快そうにケラケラと笑った。
女2「全く、絶対に負けやしないわね」
女1「ジェッキが惚れるだけのことはあるわ」
女3「ジェッキと別れたら連絡してね」
ジェッキ「!」
女3「いい感じだわ、この男」
マテは面白くなさそうにそっぽを向いた。
+-+-+-+
テレビの画面の見本を真似て、ボトンは母と二人でヨガのポーズの真っ最中だ。
「あっ!」グラグラとふらつくボトンの横で、母は安定した姿勢を保っている。
バランスを崩して床に倒れると、ボトンは母を見上げた。
ボトン「お母さんってホント不思議!毎日やってるのになんで痩せないの?」
母「全くよ!」
母はポーズをやめると、バランスボールに座った。
母「母さんだって昔はほっそりしてたよ」
ボトン「…。」
母「昔の写真、見てみるかい?」
ボトン「…うん」
母は嬉しそうに笑うと、近くの戸棚からアルバムを取り出した。
ページを開くと、ボトンは声を上げる。
そこには美しい母の姿が並んでいた。
ボトン「若いときはホントに細かったんだね!へぇ~。(ハッ)ちょっと待って!ってことはよ…」
ボトンはアルバムから「現在の母のふくよかなお腹」に視線を移す。
ボトン「あれ体が…私の未来の体?ダ、ダメよ!!!」
+-+-+-+
焦ったボトンのとった作戦。
それは、ぷよぷよのお肉に悩む女の子が一度は通る最も原始的かつ無意味な方法。
ラップ巻き!
ボトンは弟を呼びつけ、業務用の大きなラップを腕にグルグルと巻かせた。
テシク「こんなんで動けんのか?」
ボトン「黙ってさっさと巻きな。これが最高なんだって。(弟の普段着である柔道着を見て)今日はなんで黄色の帯なわけ?」
テシク「…。」
ボトン「ちょっとおおげさじゃないの?幼稚園でもないのに」
テシク「今日は童心が必要だ!だんだん純情心を失ってるような気がしてさ。お腹にも巻く?」
ボトン「カモーン!」
弟は気合を入れて姉の腹にラップを巻き始めた。
あっという間にラップでグルグル巻きになるボトン。
ぐるぐるグルグル、ぐるぐるグルグル。ご無体なぁ~~~
はしゃぐ姉弟のもとへやって来た母は「何やってんの!」といつもの叫び声を上げた。
母「大変なことになったよ!」
ボトン「?」
母「マテのお母さんが倒れて入院したって!」
ボトン「え?おばさんがなんで?」
母「今夜が峠だって。そんなに悪いなんて!早くマテに電話しなさい!」
ボトン「えええっ?!」
驚くボトンをよそに、出かける支度をした母は急いで家を出て行った。
+-+-+-+
「どこなの?」ホテルを出てきたマテの元に、さっそくジェッキから電話が掛かってくる。
ジェッキ(電話)「急に消えちゃうなんて」
マテ「これくらい合わせてあげれば十分でしょう?今後はこんな席に俺を呼ばないでください。うんざりです。それではまた」
ジェッキ「マテ!!!」
慌てるジェッキの耳に、電話の切れる音が響いた。
+-+-+-+
ホテルの前で電話を切ると、彼はちょうど滑りこんできた車に気づき、顔を上げた。
赤い車の運転席には…
あの女の横顔。
マテ「!」
マテには見向きもせず、彼の前を通り過ぎると、彼女は向こうの駐車場まで進んで車を止まらせた。
白いラインに合わて止める気など全くない、乱暴で雑な停め方だ。
車から降りてくる彼女に、マテは歩み寄った。
マテ「なぜやたらと俺の目につくんです?」
女は驚くこともなく、彼を見上げた。
女「さぁ、どうかしら。私には意味がわからないわ」
マテ「…。」
女「退いてくださる?」
マテ「俺を憶えていないはずはないのに、どうして知らないふりをするんです?」
女「…。」
マテ「あんた、一体誰なんだ?何年もの間、俺につきまとって」
女「ふぅん、ずいぶん怒っているのね。だけど、トキメいてるのも確かでしょう?私にまた会えて」
マテ「…そうですね。嬉しくてトキメいてるってことにしておいて、今ここで説明してください、この奇妙な関係を。今日は絶対にただでは帰さない」
女「はぁ…。私、3年ぶりの同窓会に来たの。(時計をチラリ)待っていてくださる?」
マテ「同窓会?あんた、ひょっとしてジェッキの同級生なのか?」
女「どうして?私がジェッキの同級生なのが気になるようね」
マテ「!」
そのとき、マテの電話が鳴る。
「母さん、今ちょっと…」
声(電話)「もしもし?」
聞こえてきたのは、母の声ではなかった。
マテ「?お前がなんで母さんの電話に?」
電話の向こうから聞こえてくるボトンの声は涙で震えていた。
ボトン(電話)「オッパ…病院にいるんです」
マテ「(電話)「?何のことだよ?!母さんがなんで病院に?」
ボトン「誰にも言わないで…ずっと抗がん治療を受けていらっしゃったんです」
マテ「…どこの病院だ」
「ちょっと待って」歩き出そうとしたマテの腕を女が掴んだ。
彼が立ち止まると、女は彼の口元へ顔を寄せた。
マテ「何のつもりです?」
女「…。」
マテ「今電話で話してたのが聞こえなかったのか?」
女「お酒飲んでるでしょう。匂うわ。1/2本くらいは飲んでるわね。そうでしょ?」
マテ「…。」
女「それで運転するつもり?お母さんのことならオサンまで行かなきゃならないはず。私が送ってあげるわ」
妖しく微笑むと、女は車へと歩き出した。
マテ「母さんが住んでる場所、なんであんたが知ってるんだ?あんた一体何なんだよ!!!」
女が振り返る。
女「どんなタクシーより私のほうが早いわよ。乗らないの?」
+-+-+-+
車の中で押し黙っているマテに、女はティッシュを差し出した。
女「ほら、拭いて。唇から血が出てるわ。泣きたければ泣けばいいのに、血が出るほど噛みしめるなんて」
マテは彼女から顔を逸らしたまま、ティッシュを受け取る。
女「あなたも恨(※ハン=内にこもり、しこりとなった怨恨や悲しみ)を抱えているみたいね」
マテ「…。」
女「人に言えない事情…、守るべき人の一人くらいは誰にだっているものよ」
マテ「…。」
マテはさらに窓の外へ顔を向け、口をぎゅっと結んだ。
+-+-+-+
同級生たちとホテルの外へ出てきたジェッキは、そこにまだ止まったままのマテの車に目を輝かせた。
ジェッキ「マテの車だわ!あの子ったらどこにいるの?」
そこへホテルマンが丁重に声を掛ける。
ホテルマン「車のキーをどうぞ」
ジェッキ「(マテの車を指し)あの車の人、見ませんでした?」
ホテルマン「あぁ、男の方ですね」
ジェッキ「えぇ」
ホテルマン「赤いSUVに乗った女性と一緒に行かれましたよ」
ジェッキ「?赤い…SUV?」
女友達3「それってユラの車じゃないの?」
女友達2「何なの?あの子、同窓会に来る途中で帰ったってこと?」
一同に不穏な雰囲気が流れる。
ホテルマン「同窓生じゃないと思います。10歳ほどお若く見えましたよ」
女友達「(声を揃え)やっぱりホン・ユラだわ~!」
ジェッキ「(愕然)」
女友達3「あの子、昔の癖が出たんじゃないの?」
女友達2「昔の癖?」
女友達1「ホン・ユラってさ、目をつけたら絶対に手に入れるでしょ?」
女友達2「(笑)」
女友達1「友達の彼氏だって構いやしないのよ」
我慢できなくなったジェッキが声を上げた。
ジェッキ「違うわ。マテはお金が好きなの。ホン・ユラは離婚して無一文で追い出されたじゃない!お金を持ってるのはね、あの子じゃなくて私よ!」
+-+-+-+
意識のないままベッドに横たわっているマテの母親の横で、ボトンは力なく口を開いた。
ボトン「お母さん、どうしておばさんはこんなになるまで言わなかったのかな…」
母「…。」
ボトン「私たちはいいとしても、マテオッパは息子なのに」
母「…母親の心ってのはね、みんなそういうもんだよ。痛くても辛くても自分でじっと我慢するの」
ボトン「…。」
母「子どもを辛い目に遭わせたくなくて、一人で耐えるのが親なんだよ。全く…、今まで一人でどれほど辛かったろうね」
ボトン「おばさん、大丈夫かな」
ボトンはラップを巻いたままの手で涙を拭う。
母「マテには電話したの?」
ボトン「うん。すぐ来るって言ってたんだけど」
母「(娘の腕のラップが気になり)あんた、それ外さないつもり?」
ボトン「…。」
母「一体何やってんのさ!」
ボトン「剥がれないんだもん…」
母「あんたって子は全く!看護師さんのところにでも行ってさっさと剥がしてもらいなさい!」
ボトンは渋々立ち上がった。
+-+-+-+
両手両足をラップでぐるぐる巻きにしたまま、ボトンがトボトボと廊下を歩いてくると、そこへマテが駆け込んできた。
ボトン「オッパ…」
マテ「母さん、どうなったんだ?!」
ボトン「おばさんが倒れたって、うちのお母さんに電話が掛かってきて…」
マテの目は思わずグルグル巻きのラップに向かった。
マテ「何て格好してんだ!!!」
ボトン「…。」
マテ「…もう帰れ」
マテは彼女を残し、奥へと走りだした。
+-+-+-+
「母さん!」
枕元へ飛んできたマテが声を掛けた。
マテ「一体どうなってんだ?何やってんだよ!!!」
息子の声に、母親はうっすらと目を開ける。
マテは夢中で母の手を握った。
マテ「早く家に帰ろう」
そう訴える息子の顔に一生懸命笑いかける母。
マテ「な?家に帰って母さんの料理が食べたいんだ」
母は両手を伸ばし、息子の頬を包み込むと、苦しそうに息を吐いた。
彼女は口を覆っていた呼吸器を外し、かろうじて声を出した。
母「マテ…。誰のことも…恨んじゃダメよ」
マテ「…。」
母「みんな…笑える日が来るわ」
マテ「何言ってんだよ、母さん!」
母が苦しそうに胸を上下させる。
マテ「分かった。俺があの人を恨まなくてすむように、連絡をとろう」
母「(首を横に振る)」
マテ「こんなに具合が悪いのに、なんで連絡もできないんだよ!辛い時は顔くらい見せてくれたっていいだろ?」
必死で首を振る母の目から涙がこぼれ、みるみるうちに息が荒くなった。
ふたたび呼吸器をつけた看護師が出て行くと、入口に立っていたユラがゆっくりと中へ入って来た。
マテ「母さん、元気になるよね?俺たち、まだやることがたくさんあるじゃないか。いい家に引っ越さないと。すっかり準備も出来てるのに」
マテはどうしようもなく、ガックリと頭を垂れた。
ユラ「お母様、とても美人だったんでしょうね」
マテ「母さんから聞かなきゃならない話があるのに、このまま死んでしまったら、俺は母さんの恨みを晴らせない…」
ユラ「…。」
そのときマテの電話が鳴る。
画面には「ジェッキ」の名前。
彼は苛立って携帯を戻そうとした。
ユラ「ちょっと廊下で電話に出てらっしゃい」
マテ「…。」
ユラ「私たちが一緒にいなくなったこと、勘づいてる頃よ。電話に出ないと疑うわ。お母様は心配しないで。私がちゃんとついてるから」
マテは心苦しそうに母の肩に手を置き、枕元を立った。
+-+-+-+
マテが出て行くと、息子の影を目で追うように母親が顔の向きを変えた。
そこに立っていたのはユラだ。
ユラ「こんな場所で失礼します。ホン・ユラと申します」
マテ母「…。」
ユラ「マテさんの力になりたいと思っている友人だとお考えください」
マテ母「…。」
ユラ「お母様とマテさんを見つけるまでずいぶん掛かりました」
マテ母「!」
ユラ「じっと隠れていらっしゃったので…。どうしてあんなに隠れていらしたんです?」
マテ母「!」
ユラ「(謎の微笑)そんなに怖いですか?」
マテ母「!」
ユラ「私は知っています。マテさんが誰の息子なのか」
マテの母の視線が明らかに狼狽したようにウロウロと動いた。
ユラ「マテさんの地位、私が取り戻してあげたいんです。何が何でもそうするつもり」
マテ母「…。」
ユラ「マテさんは自分が何者なのかまだ知らずにいるようだけど…、そろそろ教えてあげるべきなんじゃありません?」
+-+-+-+
廊下に居るマテは電話の向こうの剣幕にうんざりしていた。
ジェッキ(電話)「今誰といるのよ?」
マテ(電話)「もうご存知なのに、なぜ訊くんです?」
ジェッキ「(動揺)マテ、よく考えなきゃ駄目よ。あの子が持ってるのはイカつい車と田舎の家、それで全部なの!解ってる?」
マテ「誤解なさらないで。しばらくは連絡しないでください」
「おばさんしっかりして!おばさん!!!」
ふいに聞こえてきた叫び声と同時に、向こうから医師と看護師が走ってくる。
マテ「!!!」
医師たちが病室ヘ入ると、入れ替わりにユラが出てきた。
ユラ「マテ!急いで!!!」
夢中で病室へ駆け込んだマテの目の前で、医師が母の胸に心臓マッサージ器をあてる。
マテ「母さん!!!母さんー!!!」
泣き叫ぶマテを引き離そうとする看護師たち。
電気の刺激で数回、母の身体が波打ち… 動かなくなった。
+-+-+-+
葬儀場の廊下で、マテは茫然と座り込んでいた。
そこへやって来たボトンの母親は、「よいしょ」と彼の前に座り込むと、「喪主がこんなんじゃダメよ」とつぶやいた。
ボトン母「服を着替えなさい」
マテ「…母さんは医者に、息子はアメリカにいると言ってたそうです。僕を親不孝者にしたくなくて、アメリカにいるって…、だから来られないんだって」
ボトンの母は静かに頷く。
ボトン母「あの性分ならそうかもしれないね。はぁ、私が面倒を見てあげなきゃいけなかったのに…」
彼女は向こうに見える祭壇を振り返った。
ボトン母「あの頑固者ったら胃炎だって…、薬を飲めばいいって」
マテ「…。」
ボトン母「はぁ。信じた私が馬鹿だったんだよ」
そこへ、葬儀場の入口から遺影を抱いたボトンが入ってくる。
マテ「…喪主はできません」
ボトン母「マテ!」
マテ「母さんがこんなになるまで一人ぼっちで放っておいた奴に、一体何の資格があって喪主なんか…。僕にはできません」
ボトン母「マテ、そんなこと言わずに。ね?そんなふうに考えちゃ駄目だよ」
「あの…」そばに立っていたボトンが口を開いた。
ボトン「おばさんの写真、これしか…」
振り返ったマテの目に入ったのは、にっこりと笑っている母の『3枚目の写真』だ。
息子が選んだ、一番いい母の写真。
マテは言葉もなく母の笑顔を見つめた。
+-+-+-+
祭壇に遺影を掲げようと腕を伸ばしたマテは、その手でそっと母の写真をなでた。
一人で抱え込んでいた母の悲しみ。
母のために何もできなかった自分。
母の写真を胸に抱きかかえると、彼はそのまま床に泣き崩れた。
+-+-+-+
主のいなくなった小さな家の前で、マテは力なく縁台に腰を下ろす。
まだそこに残っている『母がいた痕跡』に、彼はどうしようもない喪失感を味わっていた。
門が開く音が聞こえ、彼が振り返ると、そこには白い花を手にユラが立っていた。
マテ「…。」
ユラはマテの姿を認めると、辺りを見渡した。
ユラ「ここでお母様と二人で暮らしたのね」
マテ「どうしてここが分かった?…それももうくだらない質問だな」
彼女は花かごを適当な台の上に置く。
マテ「知らないことなんてないんだな、俺のことは」
ユラ「人の視線は関心のある場所に集まるものよ。今日は三虞祭でしょう?お母様にお花を供えてあげて。お気に召すはずよ。お母様は白いバラが好きだって、知ってるでしょう?」
マテ「あんたが誰なのか、気になってどうにかなりそうだけど、今は気持ちの余裕がないんです」
ユラはゆっくりと彼に近づいた。
マテ「そのうちまた再会したら、そのとき訊ねましょう。あんたが何者なのか、なぜ俺をつけまわすのか」
彼を見下ろし、ユラは微笑みを浮かべた。
ユラ「これからは別のことが気になると思うけど?」
マテ「…。」
ユラ「暗号」
マテ「…。」
ユラ「あなたのお母様が遺して逝った暗号のことよ」
マテ「…!」
マテが立ち上がる。
マテ「何を言ってるんだ?」
ユラ「あなたの父親に会いに行くとき、絶対に必要だっていう、その暗号」
マテ「…。」
ユラ「私が聞いたわ」
マテ「!」
ユラ「(微笑)」
マテ「あんた、一体誰なんだ?何言ってるんだよ?」
ユラ「どういう意味かって?あなたの人生にとても重要なその言葉、私が持っているのよ。つまり…」
彼女は彼に近づくと、顔のそばでそっと囁いた。
ユラ「トッコ・マテ、あなたはもう…私のものだってこと」
マテ「!」
すっと彼から離れると、彼女は満足そうに彼を見つめた。
+-+-+-+
ここでエンディングです。
まず最初の一言。「たった数分短いだけでどんだけ楽なんだーーー!」
極楽級でしたわ。どうぞ毎回このくらいでお願いします。
視聴を進めながら訳し終えて、保存したキャプで一番多いのがハン・チェヨンだという事実(笑)
それもほぼ横顔。
最後の「ねっこらぬん とぅっ」の言い方には正直やられました。
普通のセクシーとか萌えとかそんなものを完全に通り越した、もはや妖怪に化かされているようなこの感覚(爆)
昔々、映画「魔界転生」で佳那晃子さん演じる細川ガラシャを見てゾクゾクしたのと同じですわ。
で!
「まぁ、1話ってこんなもの。様子見、様子見!」なんてことも多いわけですが、1話からかなり面白かったんじゃないでしょうか。
はっちゃけすぎて付いて行けない部分もなく、ぎゅっと締まっていて、面白いけど落ち着いて見られましたね。
1話からすっかり長くなりましたが、最後までお読みいただいてありがとうございました!
また、前半記事公開直後から山のようなリプライや拡散やお気に入り登録、本当に嬉しいです。
ありがとうございます。
※ここでお知らせですが、スマートフォンから読んでくださっている皆さん、上の方に「ホーム」と書いてあるグレーのバーをタップすると、「当ブログについて」というページへ飛ぶことができます。
お時間のあるときにひと通り目を通していただけると嬉しいです。
スマホのテンプレートはいじれないので不便^^;
こみゅ
返信削除感動です!!!セリフだけでなくて、まるで小説読んでいるみたいで!
しかもこんなに早く。
ここでまた数ヶ月の間、ワクワクな楽しい日々が送れます~
ほんと、面白い!!先が気になる!展開も早いし!!この面白さがより多くの人に伝わりますように。
翻訳、大変でしょうが、無理のない様に・・でも正直、楽しみにしてます♫
ラブレインのときから読ませていただいていました。小説をよんでいる感覚です。
返信削除ちょこちょこはいるユジナさんのコメントも楽しくて(❁´ ︶ `❁)
これからも楽しみにしています がご無理されないように (人´ω`)
よろしくお願いいたします
まったくハングルわからないので大変感謝しています!なにより、読みやすいし、早い、そして誰にでもこのようなかたちで見られるようにして下さったことにとてもとても感謝しています。これで言葉がわからないからと視聴をあきらめようとしていた所、1話2話と立て続けに観てしまいました!本当にありがとうございました。
返信削除ラブレインの時からお世話になってます。今回も翻訳して下さって本当にありがとうございます。まるで小説を読んでいるように美しい言葉で情景が目に浮かぶような記述に、毎回引き込まれています。実は、また翻訳が読めるかもしれないと密かに心待ちにしていたので、早々のUPに感謝するとともにとても嬉しく思っています。
返信削除今後ともご無理のない範囲でどうぞ宜しくお願いいたします。
こんにちは!コメント入れられた(≧∇≦)
返信削除名前を入れたあとの「次へ」ボタンが昨日は無かったのでした(笑)
素敵なキャプとともに素敵な文章ありがとうございます。
ホン・ユラの妖艶な感じ、そっか~最後は細川ガラシャ彷彿とさせる台詞なんですね。
これから、その部分だけ聞きなおしてみます♪
「ご無体な...」
返信削除「魔界転生の佳那晃子」
笑ってしまいました(*^.^*)
ユジナ~さん こんばんは^^
返信削除読みたくて読みたくて…やっと読めました♡
マンガも見たけど、もちろんドラマも見たけど、やっぱりユジナ~さんのお話読まないと楽しさ半分です(*^^*)
又よろしくお願いします
一気に読ませていただきました(*^^*)
返信削除セリフだけでなくドラマの映像が蘇る描写、そしてぷっ♪と吹き出してしまう軽~いツッコミ(゜o゜)\(-_-)
私もユラの優雅さとセクシーな低音ボイスがたまらく好きです♪キュートなボトンちゃんとの対比がより一層ドラマをおもしろく、あー、こんなありきたりなコメントしか浮かばないのがもどかしいです!
チャンペウが俺の選択はまちがってなかった!と叫んだ作品。素敵な翻訳をありがとうございました(#^.^#)
今回、初めてユジナさんの翻訳をウナ友さんのリツイートで知り読まさせていただいでます。
返信削除KBSで視聴してから、こちらの翻訳で読ませてもらうと場面、一つ一つが思いだせれて2度、楽しく『綺麗な男』を堪能できて、嬉しいです♪
それに、とても読みやすく翻訳していただいているので小説本を読んでるみたいで久々にくつろいだ時間を過ごせてます。本当に、ありがとうございます。これからも、とうぞヨロシクお願いします☆