+-+-+-+
「お掃除靴下業者の報告をするようにとおっしゃいましたので」
ナ・ホンランに部下が報告資料を差し出した。
部下「今回の売上に自信を持ったのか、プライムタイムに編成してくれと担当MDが要請してきました。当然私の手でクビに…」
ホンラン「編成なさって」
部下「はい。…え?」
ホンラン「…。」
+-+-+-+
考え事をしていたマテは、誰かに電話を掛けた。
「こんにちは。トッコ・マテです。10分だけお時間をいただきたいんです。ぜひお渡ししたいものがありまして」
電話を受けたのはキム・インジュンだ。
インジュン「どうしましょう。今日は空き時間がなくて」
マテ「出先に僕が向かいますよ。きっかり10分でいいんです」
インジュン「それなら、(時計を見て)3時頃韓国病院でちょっとだけお会いしましょうか?」
マテ「えぇ、ではそこでお目にかかります」
にこやかに電話を切ると彼は鋭い目になり、手に持ったプレゼントの箱を見つめた。
+-+-+-+
病院の待合室で、マテはインジュンの隣に座っていた。
インジュンが時計を見る。
インジュン「長い診察ね」
マテ「この前のシェフの手術のためにいらっしゃったんでしょう?」
インジュン「えぇ^^手術の予定が決まったんです。お礼のご挨拶がしたくて。ところで、渡すものって何ですか?」
マテ「あぁ」
マテは懐から箱を取り出した。
マテ「名刺入れを持って来たんです。この間見たら、年季の入った名刺入れをお使いだったので」
インジュン「…。」
マテ「高いものじゃないから、負担に思わないでください」
インジュンは蓋を開けて感激の声を上げた。
インジュン「あら♪よく見てましたね」
マテ「(嬉)」
インジュン「長い間使ってたから、古くなってたんです。でも、いただいちゃっていいのかしら」
マテ「所長さんに似合う名刺入れを探したんですよ」
インジュン「…。」
マテ「綺麗な人には綺麗な名刺入れが似合いますから」
インジュン「…。」
診察室の扉が開き、診察を終えた医師が出てくると、インジュンが立ち上がった。
インジュン「先生」
医師「おっと、キム所長が待ってるのを忘れてたな。診察が長くなりましてね。参ったな、すぐ出掛けなきゃいけないんだ」
インジュン「いいんですよ。先生のことを思い出して、万年筆を持って来たんです」
インジュンはさっとプレゼントの箱を出し、医師に差し出した。
医師「そんな…。余計に申し訳ないな。手術の日程を取ってくれって何度も来てくれたのを見送ってきたのに」
インジュン「いいえ。手術の日程を入れてくださって、こちらこそ有り難いですから」
医師「…。」
インジュン「それね、日本の匠人が作った万年筆なんです。プレゼントにいただいたんだけど、私は使い方が分からなくって。パク先生は万年筆のコレクターですから」
医師「キム所長が人情深いことだけは知っておかなきゃな。ありがとうございます。今度、日を決めてご馳走しよう」
インジュン「はい!ご馳走してくださるなら美味しくいただきます♪」
医師「あぁ。済まないね、すぐ出掛けるよ。また会おう。万年筆、ありがとう」
医師が急いで出掛けるのを見送ると、じっとそのやり取りを見ていたマテが立ち上がった。
インジュン「あら、ごめんなさい!ご挨拶もしないままで。プレゼント、ありがとうございます」
マテ「そんな、いいんです。ところで、万年筆のプレゼント、どうして今渡されたんです?」
インジュン「?」
マテ「あ、つまり…。何度もいらっしゃったんなら、そのときプレゼントすれば、もっと事が簡単に進んだんじゃないかって」
インジュンは微笑んだ。
インジュン「先に渡せば賄賂。後で渡せば贈り物。天と地の差でしょう?」
マテ「!あぁ…。なるほど。人脈の第一の原則”賄賂と贈り物の違い”か」
インジュン「そうじゃないわ」
マテ「?」
インジュン「第一の原則は”関心”。相手に対する深い関心」
マテ「…。」
インジュン「万年筆のコレクターだと突き止められる”関心”。それについてはマテさんにも才能があるわ」
マテ「?」
インジュン「私の名刺入れが古くなってること、うちの職員たちだって知らないもの」
マテ「(笑)高いレッスンを受けたんだ。コーヒーご馳走しますよ」
インジュン「この後予定が続いていて。ごめんなさい。では」
インジュンを見送ると、マテは一線交えた後の溜息をついた。
ユラから言われた言葉を、彼はもう一度反芻する。
「キム所長が一番嫌うワード、”ゴシップ”。今後ガードが固くなるかもしれないわ」
マテ「ゴシップに注意か…」
+-+-+-+
ダビデ邸にやって来たマテにトクセンが追いすがった。
トクセン「もう一度考えてみろよ。チェク社長に花美男居酒屋を出してもらえって何度も言ってるだろ!」
マテ「黙れって何度も言ってんだ」
呆れて振り返ると、そこには庭で仲良く調べ物をしているボトンとダビデの姿。
二人は並んでPCを覗きこんでいた。
マテの姿に気づくと、ボトンは笑顔で手を挙げる。
マテ「チェ代理は出勤なさらなかったんですね」
ダビデ「あぁ、外回りにしたんです」
マテ「(嫌味)ほぉ~。自宅で外回りか」
マテの相手をそこそこに、二人はPC画面に戻る。
マテ「靴下工場のことは調べたのか?」
ボトン「星を掴むような話ですよ、全く」
マテ「…。」
ボトン「チェ代理とあちこち探してはいるんだけど、(首を横に)だーれも乗って来ませんよ」
マテ「…。」
ボトン「だけど!」
マテ「?」
ボトン「私たちを誰だと?(ダビデを見て)チェ代理と私で一箇所見つけましたよね~♥」
ダビデ「ふっふっふっふっふっ」
ボトン「”四足歩行”っていう工場なんですけど、ここは可能性が高いですよ。チェ代理もうちの靴下を作ってくれる唯一の業者だろうって」
マテ「…。」
マテは早速インジュンのアドバイスを思い出した。
第一は相手に対する深い関心だと。
マテ「その工場の社長、SNSで探してみろ」
ボトン「ん?どこで探そうか?」
ダビデ「ブログを探してみましょうか?最近は自分のブログをSNSと連携させるでしょう?」
ボトン「じゃ、靴下のサイト探してみれば良さそう!」
マテもやって来て、一緒にPCを覗く。
四足歩行社長が運営するサイトはすぐに見つかった。『クリスの靴下教室』
ページをスクロールすると、どの記事も靴下について書かれている。
ボトン「靴下だらけ!本当に靴下が好きなんだね」
さらにスクロールすると、ふいに食事の写真を載せた記事が現れる。
ダビデ「おっ?スンデククだな。あぁ、写真見たら食べたくなっちゃったな」
ボトン「ん?スンデクク?(顔をしかめる)うちのお母さん、あればっかり作るからウンザリ」
ダビデ「あんなに美味しいのに?」
マテ「?!」
ダビデ「あぁ、ボトンさんのお母さんのスンデクク、ホント最高なのになぁ」
ボトン「ふふん♪」
マテ「何のことだ?チェ代理がおばさんのスンデククいつ食べたんだよ?」
ボトン「あぁつまり、ボトンさんの家で食べたんですよ」
マテ「家?!」
ボトン「あの時ですよ。入居するとき”お迎えサービス”に来てくれて」
ダビデ「(うんうん)」
マテ「(呆れ)至れり尽くせりだな。ガキのお出かけじゃあるまいし、お迎えサービスなんて」
ダビデ「”お迎えサービス”を翻訳すれば”配慮”。意味は一緒ですよ」
つっかかって余裕でかわされ、一人苛立つマテであった…。
+-+-+-+
ダビデ邸を出るマテを、ボトンが門まで見送りに出てきた。
ボトン「明日チェ代理と一緒に四足歩行に行って来ますね」
マテ「お前な、誰とでも家族同然になるのか?」
ボトン「え?」
マテ「チェ代理と…!」
声を荒らげたところで思いとどまり、代わりにマテは深くため息をつく。
マテ「もういい。明日の朝おばさんのスンデクク持って来い。実家に戻って」
ボトン「突然どうして?!」
マテ「お前、俺に楯突くつもりか?」
ボトン「(ニッコリ)そんなわけないですよぉ~♪いや、理由が気になって」
マテ「食ってみたいんだ。どんなに美味しいのか」
ボトン「…。」
マテ「(ぼそぼそ)あいつは食って何で俺だけ…?」
マテは車に乗り込んだ。
+-+-+-+
ボトンの実家では母と弟がモクモクと食材に向かっていた。
大根やりんごを切り、鍋の水に投入する。ネギの表皮をむしり取り…
大きなあくびを一つ。
弟「母ちゃん、夜中の1時に何でこんなことしなきゃいけないんだ?」
母「はぁ、チェ代理が食べたいって言うんだからさ」
弟「…。」
母「チェ代理、なんとなくうちの婿みたいでイイ感じだねぇ」
弟「先走っちゃダメだよ、母さん」
母「^^」
弟「それにしても明日やればいいじゃないか!」
母「朝絶対食べなきゃいけないってんだからさ!今から作らなきゃ美味しい出汁が出ないじゃないか」
弟「これ終わったら俺は寝ていいだろ?」
母「寝られるわけないだろ!屠殺場に行って、新鮮な牛肉買って来なさい」
彼の怒りゲージは今満たされた。
弟「キム・ボトーーーーーーーーン!!!!!!」
+-+-+-+
翌日。
ボトンとダビデは四足歩行社の敷地に足を踏み入れた。
ダビデ「今朝までに38の工場から断られた」
ボトン「必ずや突破しなければ!四足歩行」
ダビデ「あぁ、イケそうだ!」
ボトン「最初からここだったのよ!四足歩行」
二人は顔を見合わせ、頷くと、力強く歩き出した。
+-+-+-+
社長室は他にも増して突っ込みどころが満載だ。
『信念、希望、靴下、そのうち一番は靴下だ』
『今年のファッショントレンド スポーツサンダルに靴下』
『人類は四足歩行で靴下の消費が二倍に増大!』(←社名の由来
#↑全部原作そのまんま^^楽しい♪
キム・サジョク「裸足の夢、裸足の青春、裸足の友、裸足のギボン、我々はそういうのが一番キライです」
二人「あははははっ♪」
ボトン「ですよねぇ。それで私たち、サンプルを作ってきたんです」
「御覧ください」とボトンはお掃除靴下を一つ差し出した。
受け取ったサジョク社長は、ハッとした表情で靴下を撫でた。
サジョク「おお~!初めて見るスタイルだ。素材が独特だねぇ」
二人「♪」
サジョク「原糸が高すぎて、単価調整が難しいだろうが、うちはね、儲けよりも本当に靴下を必要としている人たちに供給することを使命だと思ってるんですよ」
二人「(うんうんうん)」
サジョク「まずはこのラブリーな靴下に名前をつけましょうか?」
二人「?!」
サジョク「白く、繊細な繊維…。それなら!”白い天使の羽根が私の魂を癒す靴下”!どうです?」
ダビデ「あの…、”お掃除靴下”っていうんですけど」
サジョク「…?」
3人の間に沈黙が流れる。
次の瞬間…
ボトンとダビデは荷物もろとも社長室から放り出された。
サジョク「神聖なる靴下で何をするって?掃除?!掃除だとぉ?!」
二人「…。」
サジョク「あんたたちはここにいる価値もない!今すぐ消えろ!」
二人の前で扉が閉まった。
「大丈夫ですか?」「怪我はないですか?」声を掛け合う二人に、廊下の向こうから声が飛んだ。
「勿体ないなぁ」
二人「?」
顔を上げた二人は目を丸くする。
最初に目に入ったのは…
これ。
徐々に目に入って来たのは…
これ。
そして、その正体は…
これだ。
二人「…………。」
マテ「一人で見るには勿体ない。全くキム・ボトンは頭痛の種だ…」
ボトン「あはっ^^;」
+-+-+-+
新たにマテが加わり、3人は改めてサジョク社長の前に並んでいた。
マテ「うちの職員の表現が足りなかったようです、社長。私共は決して靴下を蔑んで、掃除用として開発したわけではありません」
サジョク「ふざけてるんですか?!」
マテ「いいえ。社長はパリにファッション留学までなさったのに、服ではなく靴下を選択なさいましたよね。そこに社長の靴下に対する愛情を感じました」
サジョク「私の裏調査まで?!」
「いいえ」マテは余裕で首を横に振ると、両手を広げた。
マテ「探し当てたんです!」
サジョク「…。」
マテ「我々の情熱を共にしてくれる人を」
ボトン「…。」
「さぁ」と声を掛けると、マテはボトンが首から下げているバッグを掴んだ。
それはサンタクロースの靴下バッグ!
マテ「靴下でバッグを作るほど、靴下は我が社に大切なアイテムなんです」
サジョク「買ったのではなく、自分で作ったんですか?」
ボトン「(うんうん)えぇ。誰かが捨てたのを拾って…」
マテがふいに靴下バッグを持ち上げ、ボトンの口を塞ぐ。
ボトン「!」
マテ「蘇生!需要のなくなった靴下を蘇生させたんです!」
一同「…。」
マテ「冬になってもファッションは靴下なしには語れません」
サジョク「…。」
マテ「靴下の需要は年々減っています。お掃除靴下は、靴下の墜落ではなく…」
ボトン「?」
マテ「死にかけていた靴下の復活!」
一同「…。」
沈黙が流れる中、マテをきょとんと見上げていたボトンに笑顔が滲んだ。
彼らはサジョク社長の反応を窺う。
黙って聞いていたサジョクは、机をドンと叩いて立ち上がった。
ゆっくりとマテに近づいてくると、皆緊張を募らせる。
サジョク「Oh, my brother !!!Oh, my socks !!!」
サジョクは感激のあまりマテを抱きしめた。
サジョク「Oh, my god !!!あははははっ」
マテ「(安堵)」
ダビデとボトンもサジョクと共に手を叩いた。
+-+-+-+
皆でソファに腰を下ろすと、サジョク社長の前に温かいスンデククが用意された。
「どうぞ」とマテが箸を渡す。
サジョクはすっかり上機嫌だ。
サジョク「こんなものまで、はははっ」
サジョクが一口すすったスンデククを見て、ボトンは驚く。
ボトン「(口の動きでマテに)うちのお母さんの?」
マテ「(口の動きでボトンに)何だよ、文句あるか?」
ダビデ「(口の動きでボトンに)お母さんの?」
ボトン「(さぁ?)」
サジョクは美味しいスンデククに唸った。
サジョク「トッコ社長、私を度々感動させますなぁ」
ボトン「!」
サジョク「信じられない味だ!長年スンデククを食べてきたがね、これはどこのスンデククなんです?」
サジョク社長の感激ぶりに3人もホッとして目を合わせる。
マテはダビデに向かい、「ざまーみろ」と口角を上げた。
+-+-+-+
3人は意気揚々と工場を出てきた。
ボトン「私はまたオッパが食べるんだと思ったぁ~」
マテ「誰かが食べてりゃ俺も食べる。俺はそんなつまらん男か?」
ボトン「ふぅん♪」
ダビデ「先にスンデククを差し上げれば雰囲気も和らいだのに」
ここぞとばかりにマテが振り返った。
マテ「先に渡せば賄賂。でも、結果がどうなろうと、後で渡せば贈り物。お分かりかな?」
二人「…。」
マテ「最初からスンデククを出せば、それは靴下生産の約束をとりつけるための賄賂になるんだ」
ボトン「おー!」
マテ「でも、事がうまく行った後で、相手が一番好きなものの中で一番上等なものを贈る。それがあのスンデククだ。これぞまさに!」
ジャケットを翻し、襟をシャンと正す。Hiromi Goスタイルを決めるマテ!
マテ「…人脈形成の真髄だ。(ダビデをチラリ)Understand?」
ダビデ「…。」
ボトン「♥♥♥」
バッチリ決まったところで再び歩き出すマテの背中に、ボトンは嬉しそうに口を開いた。
ボトン「うちのオッパ、何であんな賢くなっちゃったの?」
ダビデ「(絶句)」
と、マテが振り返る。
マテ「写真送っといたぞ」
ボトン「?」
マテ「何だよ、あの壁紙。いい年して馬だのウサギだの。レースでもさせるつもりか?隙間ができたら貼っとけ。応援のつもりで送ってやったんだから」
ボトン「^^」
ダビデはマテの背中に毒づかずにはいられない。
ダビデ「人の趣味にまで干渉するなんて!どんな写真送ったんでしょうね」
ボトン「♥♥♥」
+-+-+-+
さて、オッパにプレゼントされた壁紙に、ボトンは釘付けになっていた。
吸い寄せられるように近づいていくと、彼女は放心したように呟く。
ボトン「いくらなんでもオッパって人は…」
ボトン「このサイズはおおげさすぎだよ。ふふっ、けど綺麗だなぁ~」
彼女は両手を広げ、壁の巨大オッパに抱きついた。
ボトン「大きくなったらますます綺麗♥(撫で撫で)はぁ~、どうしてこんな綺麗なの~?」
+-+-+-+
シャワーから出てくると、ちょうどマテの電話が鳴った。
「どなたです?」電話の向こうで女性の声が聞こえてくる。
女性「MGホームショッピングです。お掃除靴下の編成の件で打ち合わせをしたいんですが」
マテ「お掃除靴下の編成?いつ伺いましょうか」
女性「明日の午後2時はいかがですか?」
マテ「えぇ。ありがとうございます!」
マテの表情が輝いた。
+-+-+-+
テントの前で焚き火をたき、ギターを爪弾く。
…自宅の庭で。
なかなか素敵なライフスタイルだ。
ダビデが一人で優雅な夜を過ごしていると、いつの間にか隣にボトンがいた。
ダビデ「びっくりした!」
ボトン「ギターも弾けるんですか?」
ダビデ「まぁ趣味で少しだけ^^;」
ボトン「超かっこいい!」
ダビデ「かっこいい?」
ボトン「うん!」
ダビデ「(ギターを鳴らし)かっこいい?あははははっ」
ボトン「(笑)なんていう曲なんですか?」
ダビデ「あぁ、僕が作った曲ですよ」
ボトン「うわっ、曲も作るって?聴かせて聴かせて!」
ダビデ「まだ歌詞が出来てなくって。未完成なんですよ」
ボトン「あぁ~。じゃあ、完成したらぜひ聴かせてくださいね。私、ファンになりますから」
ダビデ「あ、年末に知り合いの先輩たちと小さいライブをやるんだけど、見に来ます?」
ボトン「すごい!コール!あぁ~、私、チェ代理のやることなすこと全部羨ましいな」
ダビデ「^^」
ボトン「こうやって夜空を見ながらキャンプするのも羨ましいし、ギターも弾けて」
ダビデ「困ったな、ボトンさんが喜ぶことは全部してあげたいけど…」
ボトン「?」
ダビデ「キャンプは寒いからダメだし、夜空は…窓開けて寝ます?あぁ、それじゃ風邪引くなぁ」
ボトン「(笑)チェ代理がギター弾いてる間、隣で見物してます。空も見上げて~、”あなた”も見て~」
ダビデ「”あなた”?」
ボトン「”あなた”は違うか^^;」
ダビデ「ギター教えましょうか」
ボトン「私に?」
ダビデ「(ワクワク)」
ボトン「素敵~♪」
ダビデはさっと立ち上がると、ボトンに席を替わり、ギターを渡した。
ボトン「どうするのどうするの?」
ダビデ「一番基本のCコードから教えますよ」
ボトン「うん^^」
ダビデはボトンの肩の後ろから手を回し、ギターのフレットを指差した。
ダビデ「ここを押さえて」
ボトン「ここ?」
ダビデ「そう。それから(他の指を誘導)ここを押さえて、人差し指はここ!」
ボトン「ここね」
ダビデ「音を出してみて」
「ドミソド…」ぎこちなく音が響く。
もう一度気合を入れて。
「ドミソドミ~♪」
綺麗な和音が響き、感激したボトンがふいに振り返る。
ダビデは戸惑って視線を逸らした。
ダビデ「すすす、すごく上手いですよ。えっと」
ボトン「でしょ?あはっ♪やった~!」
ボトンが大喜びで何度もコードを鳴らす。
ボトン「Cね!次は?」
ダビデ「次は…F!ちょっと難しいけど」
#Fなんて”初心者が押さえても鳴らない”の代名詞じゃないか。
+-+-+-+
夜も更けて、一人になったダビデは庭でコーヒーをすすりながら椅子に揺られていた。
愛くるしいボトンの表情を思い浮かべ、ひとりでに顔がほころぶ。
+-+-+-+
翌日。
マテはユラのカフェを訪れていた。
ユラ「ここで打ち合わせするの?編成局なら会社でしなきゃいけないんじゃないの?」
マテ「関係者がこの近くで予定があるって。場所なんてどこでもいい。編成担当者の反応を…」
そのとき、入口を誰かが入ってくるのに気づき、マテは言葉を区切った。
ナ・ホンランその人が角を曲がって近づいてくる。
マテ「!」
驚いたマテの顔に、ユラも後ろを振り返った。
二人は揃って目を見開いたまま立ち上がる。
ホンラン「思ったより驚いたようね。気楽な場所で会ったほうがいいと思って、ここにお呼びしたんです」
「気まずいかしら?」ホンランはユラをチラリと見た。
マテ「とんでもない」
ホンランは店を見渡す。
ホンラン「いい雰囲気ね。コーヒーの味はどうなの?」
ユラ「お二人でお話ください。コーヒーをお出ししますので」
ホンランが微笑むと、ユラは硬い表情でその場を離れた。
「座りましょうか」ホンランが声を掛けると、マテは彼女に続いて腰を下ろした。
ホンラン「MGホームショッピングのプライムタイムの売上は4億が基本です」
マテ「(頷く)はい。承知しております」
ホンラン「希望の時間をあげましょう」
マテ「ただくださるわけはないでしょう」
ホンラン「(笑)当然よ。慈善事業じゃないんだから」
マテ「…。」
ホンラン「条件はひとつ。売上は4億。必ず守ってください」
マテ「万が一。もし守れなかったら?」
ホンラン「通販会社と業者は5対5、もしくは6対4でシェアします。成長途上にある若者を応援する気持ちで6対4。あなたが6でしょう?でも、あなたの6に関心はないの。うちの取り分は4。その40%分を賠償してください」
マテ「…。」
ホンラン「そして、敗北を認めて、綺麗さっぱり撤退しなさい」
マテ「…。」
ホンラン「MGの条件、受けられるかしら?」
コーヒーを運んできたユラは、二人の緊迫した様子に立ち止まった。
マテ「いいでしょう。MGの条件を飲み、僕の条件をお話します」
ホンラン「…。」
マテ「一つ。いかなる妨害も陰謀もないことを願います」
ホンラン「ふふふっ。ナ・ホンランという名では有難くないだろうから、MGグループの名を掛けましょう」
マテ「二つ。最高のMCをつけてください」
ホンラン「(微笑)喜んで」
マテ「では、そのつもりで準備します」
ホンラン「期待しますわ」
出て行くホンランと入れ替わりに、ユラがテーブルにやってくる。
その途端、マテは力が抜けたように椅子に崩れ落ちた。
ユラ「よく考えたの?無茶すぎるんじゃない?」
マテ「…。」
ユラ「稼いだお金が出て行くことを言ってるんじゃないわ。ナ・ホンランという沼にはまるかもしれない」
マテ「工場の件、うまく進んでるんです。チェ代理とボトンが苦労して見つけたんだ」
ユラ「…。」
マテ「どっちにしても条件をのまなければ編成してもらえないし、靴下の生産をやめれば被害もないだろうけど、苦労した人たちがガッカリする気持ちはどうやって補償するんだ?」
ユラ「…。」
マテ「やり遂げるしかない。最初のときみたいにな」
力強いマテの眼差しに、ユラがようやく微笑んだ。
ユラ「マテモカ、一杯作ってあげる。飲んで頑張って」
+-+-+-+
副会長室へ戻ってくると、ホンランはニヤリと笑った。
ホンラン「調子に乗って…」
+-+-+-+
リップを塗り直す手を止め、ユラはさっきの場面を思い浮かべた。
ホンランがカフェを後にするとき、すれ違いざまに立ち止まったのだ。
~~カフェの通路で
ホンラン「担保一つない業者よ。(チラリと店を見渡し)このカフェを担保にしましょう」
ユラ「!」
ホンラン「このゲームに負けたら、あなたもツベコベ言わずに降伏することね」
ユラ「…。書類をお送りします」
ホンラン「囲碁で一番危険なのは何だと思う?”自充手”よ」
※自充手=囲碁の用語。自らの行為により自分自身を窮地に追い込むこと。
~~
ユラはリップをキャップに収めた。
ユラ「プライムタイムの編成ね…。(微笑)囲碁は最後までわからないわ、ナ女史。誰が自充手に陥るのか」
+-+-+-+
四足歩行社の社長室で、ボトンが一つ一つ、出来あがった白靴下を箱に詰めるのを、マテはじっと見守っていた。
思わず笑顔が溢れるが、ボトンが「ふふっ♪」と顔をあげると、慌てて顔を引き締める。
マテ「さっさとやれ」
マテは出来上がった製品を一つ手に取り、真剣なまなざしで見つめた。
~~前回の完売後、母親の慰霊堂を訪れたマテとボトン
マテ「それならまずは会社名が必要だ」
ボトン「あぁ~、そうね。会社名!何にしましょうか」
マテ「…。ボトン(※普通)会社」
ボトンが眉間にシワを寄せた。
ボトン「はっ?うちのカルビ屋と同じ?」
マテ「(頷く)普通会社。バッチリだ!」
ボトン「あぁー。うちのお母さんが言ってたんだけど、普通っていうのは一番大きくて難しいって。それで私とカルビ屋の名前を”普通”ってつけたんだけど、私はこんなザマだし、カルビ屋は潰れかけだし…。ははっ、他のにしましょうよ、オッパ」
マテ「イヤだね。他のを考えるのは面倒だ」
ボトン「…。」
マテ「普通会社。他にはあり得ん。(一人納得)」
ボトン「…。」
~~
商品を見つめて笑みを浮かべるマテの肩を、サジョク社長がポンと叩いた。
サジョク「会社の名前、すごくいいよ。ん?」
サジョク社長も商品を手に取り、パッケージを眺めた。
そこには「(株)普通 Normal company」の文字。
+-+-+-+
さて、2度めのホームショッピング放映の日だ。
気合を入れてマテがスタジオに足を踏み入れると、振り返ったダビデが小さく頭を下げる。
さっそく放送が始まった。
MC「さぁ、スペシャル番組でお届けします。お掃除靴下、先日の放送でも大人気だった製品、今日はたっぷりご用意しました」
ユラもホンランも、それぞれの場所で放送を見守っていた。
番組が進むにつれ、マテたちの表情に焦りが生じる。
彼らがじっと見つめているモニターには、今回も注文数がリアルタイムが表示されているが、思ったように数字が伸びていなかった。
ボトン「オッパ、この間の半分も入ってないですよ、注文」
ディレクターたちも苛立ち、掃除の実演をするようMCに指示を飛ばした。
さっそく曇ったガラスを拭いてみせるMC。(←ん?汚れは落ちたのか?
それでも注文数は伸びず、MCは「注文は少しずつ増えています」とトーンを落とした。
ボトン「これじゃ1億も難しいですよ」
マテ「…。」
マテの頭に「40%分は保証してもらう」というホンランの言葉がうずまいた。
結果を出せなければ、自分は完全にアウトだ。
どうする、マテ!!!
+-+-+-+
ここでエンディングです。
マテが四足歩行社にやってきて、社長の機嫌を直して交渉を成立させるエピソード。
実は、原作ではマテは最初にボトンと一緒に放り出されていて、後から登場したキム・インジュンが彼らの靴下愛をアピールし、交渉を成立させてくれたのでした。
ここを、インジュンのアドバイスを元に、マテが自分で考えて社長の心を動かす展開に変えたのは、上手い変更ですねぇ。感心しました。
補足しておくと…
サジョク社長が喜んでスンデククを食べたあと、原作ではインジュンが彼らにもう少し詳しくアドバイスをしています。
この辺りは、私たちも学ぶところが多いので、ちょっと紹介しますね。
最初からスンデククを渡せば、もっと簡単に交渉を成立させられたかもしれないけれど、自分の『靴下に対する信念』を賄賂のために曲げたという事実が、後々まで恥ずべき記憶として残る。
そうすれば社長と私たちの関係は一度で終わってしまう。
交渉が成立した後で、相手が一番好きなものを贈れば、社長は今後、自分たちのことを思い出すたびに、さっき美味しいスンデククを食べた喜びを繰り返し思い出すことになる。
さて、私も皆さんの好きなものを調査しますか^^
今回も最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。
ちょっと自信ない部分がチラホラありますが…すみません^^;
また、コメントやTwitterでのリプライ等、いつも本当にありがとうございます。
スンデグク、、、(  ̄▽ ̄)
返信削除スンデのスープ、、、
私、、、スンデが苦手で、、、(;A´▽`A
タッカンマリ←お鍋の
去年は何度もタッカンマリを食べました!
今年はまったのは
ポッサム♪蒸してあるので
優しい感じで大好きです♪
ヨンナムチキンも大好きで
新大久保の近くなので、よくデリバリして食べます♪
そして、ついにヨンナムチキンのタレを
娘が買い込んでましたww
こんばんは(*^^*)
返信削除今日娘と屠殺場の話をした後で 6話の後編を読んだら、屠殺場の会話をしてる部分があったのでビックリしました!
マテの大きな壁紙私も欲しいな~(#^_^#)
いつもありがとうございますm(_ _)m
今日もありがとうございました♪
返信削除マテが今日は大活躍でしたね♪
スンデククの件は直ぐに取り入れて大成功でしたね♪
靴下の注文が上がらないのが気になりますね♪
あたしも注文出来たら沢山買いたいのにな~(o^・^o)
また 今週のも楽しみにしています♪
ありがとうございました~!だんだんマテが賢くなっていくのが面白いですよね^^私たちも勉強になりますし!きょうの放送も楽しみです^^
返信削除インジュンさん...凄い人なんですね!今回の学ぶべき事は重要そうですね。原作の内容も紹介してくださったり、とてもわかりやすい文章ありがとうございます^ ^
返信削除古畑マテ三郎...笑ってしまいました(σ≧▽≦)σ